ブラック工場とインド映画と俺のちっぱい②

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ブラック工場とインド映画と俺のちっぱい②

インド映画は使い物にならなかった。 流れ作業の、初歩的な割り当てでも、ミスをするは、「早スギルヨー!」と手が追いつかないは、「モー立ッテラレナイ!」と駄々をこねるはで、たびたび、ベルトコンベアを止めていた。 文句なしのお荷物だったとはいえ、お目付け役があまり、作業場にこないこと、もともと、疲労困憊の作業員が苛立つキャパもないことで、案外、迫害されなかった。 毛深いマッチョ、でも、チワワなお目目のギャップに、なんだかんだ、皆、弱かったのだろうし、インド映画がみっともなく床をのた打つのを見て、自分が不平不満を漏らせない分を、多少、消化していたのかもしれない。 仕事を置いといて、とにかく、人間関係で困ることはなかった。 「甘え上手」を自認する人懐こさでもって、背広組以外は、誰にでも親しげに接したもので。 そして、俺に対しては、相変わらず「米原」ではなく「マイラバ―」呼ばわり。 「ほらほら、皆、困ってるから」と宥めて、持ち場に戻らせようとすれば「ダイキライダヨ、マイラバ―!」と泣くし、物欲しそうに見てたから、弁当のからあげを一つ恵んでやったら「ダイスキダヨ、マイラバ―!」とやっぱ泣いて、食べるし。 いちいち「ダイキライ」「ダイスキ」と騒ぎたてるあたり、俺相手には、とくに調子がいいと思う。 ナめられているのか。 なににしろ、毛深いマッチョのくせに、中身は癇癪を起しやすい幼児だから「使えるようにしろ」と任された俺の心労は絶えなかった。 寝不足、栄養不足、血液不足、筋肉不足、脳みそ不足なのは、ずたぼろの班員と変わらず、その上でインド映画に翻弄されると倒れそう。 班長とは名ばかりに、なんなら、誰より奴隷かもしれないのだ。 上からは天文学的な数値のノルマを押しつけられ、半ば屍のような班員からは突き上げられずとも、死なないよう目をかけ、なにかと調整しなければならず、自ら穴埋めもするのだから。 といって、倒れたら「厄介になりたくない病院」に連れていかれるとあって、どんなに負担が圧しかかっても踏ん張っていたのだが、自分では、どうしようもならないことがある。 ノルマの達成だ。 天文学的な数値のノルマは、嫌がらせと発破をかけるためだから、いいとして、問題は実質的なもの。 工場長室に呼びだされた俺は、いつものように「生きる価値もない糞野郎どもに恩情かけてやるよ」と鼻で笑われるのではなく「ああ?お前、ふざけんてんのか?」と本領発揮に凄まれた。 そりゃあ、インド映画が幾度、ベルトコンベアを止めたものやら。 おかげで、ほんのすこし、作業員の心身が休まったとはいえ、当たり前に、その分、製造量は落ちる。 逆に、質は向上したが、ブラック企業なんて目ではない、奴隷監獄の工場にあって、言い訳は通用しない。 「すみません」と頭を下げたまま、尚も、されるだろう叱責にかまえたものを「まあ、原因ははっきりしているけどな」と思いがけず、口調が和らいだ。 「あのインド映画だろ。 ろくに仕事できねえは、そのくせ、食いっぷりだけは一端だは。 きたときと変わらず、マッチョで肌艶がいいときたもんで、ほんと、ふざけたヤローだ」 「体が頑健そうなら、いっそ」と口にしかけたのを「来月は!」と遮る。 「来月には、あの無駄にいい肉体に見合った働きをさせます! 今月分足りなかったのを、補うので・・・!」 頭を上げずに、ちらりと見やれば、頬杖をついて無表情。 こちらが焦り慌てて懇談するとき、たいていは、ご満悦そうに、にやついている彼が、冷ややかに見返すばかり。 興ざめしているようで、そうでもないような。 どこか違和感がある反応に、気を取られる暇もなく、広げた足の間を、ぽんぽんと叩かれた。 顎を反らし、にやにやしだしたのに「いつも通りだ」と思いつつ、足取り重く、ソファに歩み寄る。 手前で、結んである髪を下ろしてから、足に挟まれる形で座った。 「ふ」と鼻息を吹いた彼は、脇の下から手を通して、俺のカッターシャツのボタンを外していく。 露になったのは、ちっぱいだ。 噂では、彼は権力抗争に負け、一命をとりとめたものを、この奴隷監獄に島流しされたらしい。 俺たちほど忙しくないとはいえ、監視管理役の人員が少ないこと、町まで車で二時間かかることで、俺たち同様、この工場にほぼ、つきっきりでいる。 ともなれば、お盛んなほうらしい彼は、女体に飢える。 かといって、工場に女を連れてこれない。 山奥の男だらけの監獄のような環境にあって、女はトラブルの元になるから。 トラブルをきっかけに、法律違反だらけの工場を、お国の機関に嗅ぎつけられる危険もあるし。 で、彼が思いついたのが、作業員の一人の胸を膨らませ、女の代わりをさせるというもの。 女顔でもなく、言動や仕草も、とくに女らしいでもない、平均的な男の俺が選ばれたのは、女性ホルモンを摂取する薬(通称バストアップサプリメント)を飲まされた五人中、唯一、胸が膨らんだからと、短小だからだ。 なるべく相手が女と錯覚して、性処理をしたいから、こちらのちんこは触らないし、アナルにも手をつけない。 はじめに胸を揉み、さらに(バストアップ)クリームを塗って、念入りに揉みこんでから、素股をする。 女と錯覚しやすいよう、髪を伸ばすこと、最中は、決して声を漏らさぬことを、厳命されている。 女に錯覚しようと、集中するからか、彼も口を利かない。 はずが、今日は胸を揉みはじめて、すこしして、髪に口を潜りこませ「お前、ほんと、健気だな」と耳の後ろから囁いてきた。 「こんなところにいちゃあ、自分の身を守るのが精一杯で、そのために人を売ったり、踏みにじったりするのだって、当たり前にすんのに。 自分の班の奴が病院送りにされないよう、こうやって、ちっぱい捧げてんだからな」 独裁者といっていい彼に、サプリメント漬けおっぱいを差しだしたくらいで、勤務時間が減るとか、食事が豪勢になるとか、薄っぺらい布団の厚みが増すとか、優遇されることはない。 いくらでも、ノルマにいちゃもんをつけられるのを、ご機嫌取りして、思いとどまらせるくらい。 所詮、性処理と苛めの延長でしかないのが、今日はどうしたのか。 どこかムードを醸して、耳の裏に熱く吐息しつつ、低く囁いてくる。 サプリメントの副作用で、性欲が薄れ、胸を揉まれても、ほぼ無感覚なのはいいとして、耳はよろしくない。 どうも耳が弱いらしい俺は、前に噛まれたとき、声を漏らしてしまった。 次の瞬間、「鼓膜が腐る!」と殴られて、以降は、決して触れようとしなかったはずが。 「他の班は、病院送りにされてんのに、お前んとこは、お前が班長になってからゼロか。 そのくせ、班の奴やらは、お前をありたがらないし、恩を覚えて、敬ってもくれねえし、可哀想に。 インド映画なんか、足手まといだけじゃなく、借金した理由、聞いたら、庇いたくなくなるぞ?」 耳の縁に、舌の先が当たって、肩を跳ねつつ、唇を噛む。 「あいつは、さぞ、右も左も知らないで騙された、哀れな外国人ぶっているけどな」とつづけ、舌を当ててくるは、胸も揉みこんでくるはで、死に物狂いで声を抑えながらも、下が反応しそうになる。 行き場のない熱と快感を持て余し、話半ばに聞いていたのが、「おっぱいパブだよ」と囁かれ、目を見開いた。
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