ブラック工場とインド映画と俺のちっぱい③

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ブラック工場とインド映画と俺のちっぱい③

「おっぱいパブにはまりまくって、ツケしまくって、首が回んなくなりやがった。 自国でも、似たような、くっだらん理由で借金こさえて、逃げてきたらしいぜ」 耳の裏で、くく、と喉を鳴らし笑われて、「っ」と涙を流しながらも、つかの間、ぼうっとする。 これまで目にしてきたインド映画の、笑う犬のような愛嬌ぶりや、目も当てられない醜態まで、走馬灯のように脳裏に過ぎていったからで、背後の彼は、動きを止めて、俺がリアクションするのを待っているようだ。 残念ながら、背後の彼のご所望に沿わず、肩を揺らしてしまった。 笑い声は飲んだはずが、伝わったようで、且つ、お気に召さなかったらしい。 にわかに耳の縁を噛んだなら、全体的にねっとりと舐め上げ、舌を突っこんできた。 「ん!」とつい鳴きつつ、そのあとは、どうにかお口チャックしたものを、忙しく舌を抜き差しされ、ちっぱいの張りつめた乳首をいじられて、短小なりに、膨らんで固くなる。 舌が引っこ抜かれたと思えば、「声をだせよ」と割とイケボに、鼓膜をこそがされて、でも、「う、ん・・・!」と血の味ごと唇を噛みしめる。 お許しがでたのだから、我慢する必要はないとはいえ、あんあん鳴いてしまっては、取り返しがつかないように思える。 俺が頑なに唇を噛むのに、いつもは性急に事を済ませたがる彼が、案外、粘って愛撫をしてきて、ついには、片手で乳首をこねつつ、もう片手を下へと滑らせていった。 はっとして「だ・め・・・!」と両手で阻もうとした、そのとき。 「ココカ!マイラバ―!」と扉が叩きつけられた。 突如のインド映画の降臨。 しかも、その背後から、しっちゃかめっちゃかになっているような騒音が、どっと室内に流れ込んできて、俺も彼も唖然茫然とする。 工場長室、別名、セックス部屋とあって、壁が防音加工されているから、インド映画の突撃も、それに人や物が巻き込まれて、かなりの損害がでているようなのも、今更、一気に思い知らされて。 「噂、ホントダッタカ! ナンテ、不潔ネ、マイラバ―!コノ浮気モノ!」 「噂?」と言い分が飲みこめないうちに、「ムッツリスケベ!」「裏切リモノ!」「オ前ノ母チャンデベソ!」と悪口を泣き喚かれる。 かと思いきや、口を開けたまま、一瞬、声を失くしてから、とたんに絶叫したもので。 「OPPAI!」 より片言に叫んだのは、俺のちっぱいを見てのことに違いない。 反射的に胸を隠し、つい頬を熱くしたら「OPPAI!」と目の色を変え、突進してこようとした。 が、我に返った背後の彼が、何かを差し向けたなら、とたんに踏みとどまる。 見やれば、スタンガンだ。 前にインド映画が、「電撃怖イ!」と喚いていたのは、これで脅されてかと思う。 というか「メーデー!メーデー!」「大丈夫かー!しっかりしろ―!」と戦場にとび交うような悲鳴が聞こえてくるからに、まさに見た目ゴリラのままの腕力には、電撃でしか太刀打ちできないのだろう。 「ヒドイ!OPPAI独リ占メ、ズルイ! モーヤッテランナイ!」 スタンガンガードされて、後ずさったインド映画だが、逃げるにしては怒れる獅子のように、扉へと猛進していった。 スタンガンを持つ彼と、片ちっぱい掴まれたままの俺と、呆けている間に「わーやめろお!こっちくるなー!」「ここで暴れるな!誰か止めてくれー!」「駄目だ!この機械は!あー!」とあれよあれよと事態は悪化し、とどめのように、火災報知器の音が鳴って。 建築の規定糞くらえな、欠陥工場だったから、火災報知器が作動し、そう経たず全焼した。 が、幸いに、死人はでず。 もとより、生きる屍のようだった作業員だが、自暴自棄にはなりきっていなかったのだろう。 火災報知機が鳴っても、パニックにならず、統制が取れた避難をして、皆して無事、脱出をしたらしい。 そのどさくさに紛れ、監視管理役の事務所にもぐりこみ、電話で消防署と警察への連絡、救急車の手配をしたという。 町から車で二時間とあって、サイレンが聞こえてくるまで、大分、時間があったものを、その間に監視管理役たちは、裏道から車でとんずらした。 おかげで、駆けつけた警察に、俺らは保護してもらえた。 救急救命士にも診てもらい、命の危険レベルに憔悴した俺と、火傷を負ったインド映画だけが、救急車で運ばれることに。 救急車内に横たわって、揺られながら、思いを馳せたのは、気に食わないながら、インド映画のことだった。 おそらく、工場に火がついたのは、インド映画が暴れたせいだ。 火事の元凶のくせに、火中に跳びこんで、同僚も、逃げ遅れた背広組も助けたというのだから、本当、食えない奴で。 病院で意識を取りもどしたのは、奴隷監獄から救いだされて、五日後だった。 たまたま、点滴を替えていた看護師が気づいて、五日間、何がなったのか、聞かせてくれていたところ、遠くのほうから「やめてください!どうか落ちついて!」「今は関係者以外、会えないんです!」と慌てふためくのと「マイラバ―!どこー!」と悪夢の再来のような喚きが聞こえた。 「何かしら?」と扉に向かおうとした看護師を呼びとめ、頼んだ。 「あいつ、放っておくと、お医者さんに手を上げたり、医療機械を壊しかねないんで、ここに、入れてもらっていいですか」と。 外でやかましく暴れていたインド映画は、俺の病室にきて、拳を下ろしたものを、ベッドに突っ伏し、やっぱり、やかましく、ぎゃあぎゃあ泣いた。 意気盛んな割に、火傷はひどそうで、痛々しい、包帯まみれの体で「マイラバ―、死ナナイデ―!」と泣かれれば、こみ上げるものがあったが「マダ、オレ、OPPAI揉ンデナイ!」とつづいたのには、むっとしたような、ほっとしたような。 バストアップサプリは、もともと効果が薄いし、断続的に飲まないと、すぐに元の木阿弥。 一応、触ってみたら、すっかり洗濯板になっていて「残念。オッパイはもうないよ」と報告すれば、案の定、元気づけるために冗談をかましたわけでないようで、「エエ!ヒドイ!」と目を剥き、硝子が割れんばかりに絶叫したのだった。 「ダイキライダヨ、マイラバ―!」
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