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受け継がれし桃の意志2
外観通りボロボロな通路を通っていくと、男は窓は割れコンクリートの破片や鉄パイプ・椅子など様々なゴミが散らばる広い空間へ。
そこには如何にもなガラの悪い輩が、我が物顔で屯っていた。その人数はざっと十から十五。下顎から二本の牙を生やした者、痩せこけているが腹だけ異様に出た者、蛇の尻尾が生えた者、体が岩で出来た者……。
廃墟内に屯していたのは明らかに人ではない御伽。しかしその姿形に関係なくこの場にいた全員のどこかしらには同じタトゥーが彫られていた。
足が数本千切れ剣を持った傷だらけの蜘蛛のタトゥーが。
そしてそんな空間へやってきた男の足音に、その者たちは一斉に入口を鋭い眼光で睨みつけた。
だが隠す気も無いその敵意を剥き出しにした視線を浴びながらも男は平然としていた。
「初めまして。私はAOFの者です」
そして男はルーティンの決まった行動のようにベストのポケットから横長の手帳を取り出し、一瞬だけ見せるとすぐに仕舞った。その手帳には名刺ともう一枚何かの許可証が収められていたが、誰一人それを確認出来てはいない。それ程までに一瞬だったのだ。
だがそれはどの道、彼らに見せたところで何の意味も無い事を男が知っていたからだった。最早、見る事すらしないと彼は分かっていた。
「実は今回は、こちらに浜西美咲さんという方がいらっしゃるという情報を入手いたしましたのでお邪魔させていただきました」
「そんなやつしらねーよ」
すると瓦礫の山頂に座っていた下顎から牙を生やしたオーケットが立ち上がり、隠す気も無い苛立ちを表しながらそう言った。そんな彼の声に反応し男の両耳に付けられたイヤホンの音量は独りでに下がる。
「もしかしてこの前、さらったあの女じゃないっすか?」
オーケットの言葉に瓦礫の山下から腹の異様に出たザッキが思い出したように耳障りと感じるほど甲高い声で話しかける。
「あぁ、あのうるせー茶髪の女か」
「こちらにいらっしゃるのですね?」
「あぁ? 知らねーつってんだろ」
だが男に対しニヤリと煽るような笑みを浮かべるオーケット。
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