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受け継がれし桃の意志3
しかしその言葉は男にとって予測通りだった為、早々に無視された。
「’F’。リスト参照」
「スキャンヲ開始シマス」
すると男の声に反応した’F’はそんな御伽たちをスキャンし始めた。
「スキャン完了。リスト参照シマス」
真ん中の電光掲示板のような部分で二~三個の黄色い長方形の光が回り出す。
そしてその光が何週かすると再び目のような青い光に戻った。
「テリコス・アラネア、ト一致シマス」
「一度だけ警告します。降伏し彼女を返してください」
どうなるか手に取るように分かりながらも一応言っておこうと口にした所為だろう、その声は警告するにしては小さく覇気が無かった。
「はっ! するわけねーだろ! バカが!」
オーケットは中指を立て挑発を続けた。
だがそれは男にとって余りにも一切ズレのない予定通り過ぎる行動と言葉。最早、面白味にさえ欠けていた。
「では実力行使ということで」
言葉と共に男は顔の前へ持ってきた刀を徐に抜いた。その行動に廃工場にいた全員が警戒心と共に立ち上がる。
そして男が動き出した瞬間、イヤホンから流れていた音楽はまるで場を盛り上げる演出をするように音量を上げた。余裕の表れか男はイヤホンから流れる曲に合わせ踊るように戦った。始まりは緩やかに――サビに向かうにつれ段々と華麗かつ激しく。相手の攻撃を躱すその動作すらパフォーマンスの一部ではないかと思わせる程に。曲と動きとでハーモニーを作り上げていた。
そして曲が終盤に差し掛かると、瓦礫の山の頂上へ着地した男は血を払い最後の音と共に刀を鞘に納めた。余韻を残しながら消えていく音を余すことなく、最後の一音まで味わったあと男はイヤホンを取り一つにまとめ首に掛ける。
そして瓦礫の下に転がる御伽達を見下ろし溜息をひとつ零した。
「’F’。EOCBに連絡」
「連絡中……。連絡中……。連絡完了。到着マデ約二十分」
「その間にあの子を探しましょうか」
そして男は瓦礫の山から飛び降りると早速、辺りを見渡す。
だがどこを見ても他の部屋への入口や上への階段は見当たらない。
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