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10.生き残った結果
物語の上で私は既に死んだ存在に生まれ変わったのです。
王子の回想場面にすら出てこない。
あるとすれば、説明文の中で『王子には嘗て多くの婚約者候補がいた。その中でも特に身分が高かった公爵令嬢が夭折しなければ、彼女が王子の婚約者として彼の後見を支えていただろう。そうなれば王子は今頃王太子位に立たれていた筈だ』の一文だけ。モブにすらなれない。ちょい役にもなれない存在。それが私だったのです。
冗談じゃない!
折角、生まれ変わったのに夭折って何!?
神様は意地悪だわ!ここはヒロインかもしくは悪役令嬢に転生するのがお約束のパターンというものでしょう!!何故、死人!?それも一文にしか乗っていない霞のような存在なのよ!!ふざけるな!!!
私は絶対に、ぜ~~~~たい、生き残ってやる!!!
と、決意して早十数年。
生き延びました。
物語が始まるまで戦々恐々としながらも人一倍……いいえ、人の二倍三倍と健康に気を配りました。何かあっても自分で対処できるように武術を習い、領内の軍備に力を注いだお陰で公爵領の私兵は過去最大。間者が入り込んだらすぐに対応できるように秘密警察まで作りましたわ。経済が上手く回るようにアレコレした結果、商業が発達し、潤いました。国内外の最新情報を得るために情報組織を作ったお陰でしょう。
ここまでの事が出来たのは偏に、私が公爵家の一人娘だからだとしみじみと実感します。他ならこう上手くはいかなかったでしょうから。なにしろ、お金がかかる作業が殆どですもの。もし私が貧乏貴族に生まれていたら絶対に無理な案件でしたわ。やはり、世の中お金なんだと実感した日々。
勿論、これだけで終わらせはしません。
私の生家であるヴァレリー公爵家は「風魔法」の使い手です。
はっきり言って貴族ではあまり使用しない魔法です。と言うのも風を操って重い物を運んだりするぐらいしか使い勝手はなく、平民なら重宝するだろうけど貴族では「ちょっと微妙」と言った処でした。「何に利用すればいい?」と逆に聞かれるくらいに実用性がなかったのです。ええ、貴族には。ただ私の場合、魔力量が桁違いに多いのです。まぁ、そのせいで小さい頃は何度も熱を出してました。
公爵令嬢の立場を利用して「風魔法」の研究に取り掛かったのも功を奏しました。使い勝手の悪いと思われていた「風魔法」は思いのほか使えたのです。
『意外な使い方だ』
『新しい発見ですな』
『いやはや……驚きました。まさか、風魔法でこんな事が出来るなんて』
『流石です!流石、ヴァレリー公爵家の令嬢!』
などなど、周囲の評価が変わり始めました。
私の評価が上がったのか、それとも風魔法の評価が上がったのか。
どちらだったのでしょう? 努力の甲斐あって「風魔法」は飛躍的に進歩しました。ただし、それを利用するにあたっては相応の魔力量が必要です。
使い方によっては魔力をごっそりと取られたりしますがそれは別としても重力を操作できたり風でバリアを作り上げる事ができるので、ある意味戦闘向きとも言えるでしょう。また、空気を操れば難なく敵を死滅させられます。生きとし生けるものは空気を吸わないと生きられませんものね。
人によっては「やりすぎ」と思われるかもしれませんが、死因が分からないので仕方ありません。
孫子の兵法でもあるではないですか。
「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と――――
私はそれを実践したに過ぎません。
……これはやはり私の評価が上がったということでしょうか?
良い事です。
『ヴァレリー公爵令嬢は最高レベルの風魔法の使い手』と大評判。
私自身の付加価値が上がったということ。
これだけ一生懸命頑張ったにも拘わらず、婚約者からの婚約破棄と冤罪を申し渡されて裁判に負けてしまったわ。まぁ、出来レースだったから負けて当然なのだけど。弁護人が一人もいない状態で勝てたらそれはチートというものでしょう。何故か弁護士を立てる事を裁判所が認めなかったのだからしょうがないわ。きっと王太子達の仕業でしょうけどね。
もしかすると、私が生き残ったが故に起こった反動なのかもしれないわ。それとも、原作の矯正力が働いたのか……。物語の中で王子は立太子されていない。私が夭折せずに王子の婚約者として存在したために彼は「王太子」となったのですから。
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