14.情報1

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14.情報1

 メイド達の情報も侮れない。  王太子とその側妃についてまとめた情報の数の多さに口元が引きつってしまう。よくもまぁ、これだけの量をと思わなくもなかった。……実に読みごたえがありそうだこと。  シリーズものかしら?  どこかの人気小説のシリーズ作品のように一巻事の本になっているし、なによりも最初のページに各シリーズの登場人物一覧があるのは報告書というよりも、どう見ても小説としか思えなかった。しかも分かり易い絵柄付き……。 「凄いわね」 「はい、頑張りました!」 「情報がいたるところにありましたから!」  えっへん!と胸を張るメイド達に私は笑うしかなかった。頼もし過ぎるわ。彼女達の情報収集能力が優れているせいかしら? それとも、この国の人達の口の軽さに驚くべきなのか判断に迷ってしまうわね。  ペラリ、ペラリ。メイド達に促されるままに文字を追いかけページをめくる。  友人関係、側妃が篭絡した男達とその婚約者。関係貴族達の詳細を細かく記録したもの。王太子とその側妃への評価がこれでもかというほどに書かれていた。あまりに予想通りというか。これだけのことをしでかして廃嫡になっていない王太子に驚くことしかできない。王太子の友人で側妃に夢中になったせいで跡取りから外された貴族子息が多いというのに。ああ、でも跡取りから外されただけで勘当にまでなってはいない。恐らく、第一王子が王太子のままでいた事も関係があるんでしょうね。貴族側が厳しすぎる処置を我が子に施さないために王太子のままに据え置いたのかは疑問だけれど……。貴族側としては「やらかした嫡男」を再利用ができるもの。現に婿入りという形で他家に出荷しているわ。婿入りでなくても各家にとって利益になる婚姻がなされているわ。まぁ、一部そうでもなさそうだけれど……。それでも籍を抜かれて放逐されたりしていない分、マシだわ。要注意人物として、各家で監視対象でしょうけどね。 「それにしても……これは貴族側は知っているのかしら?」 「はい、王都の貴族にとっては共有する情報と言ってもいいかもしれません。側妃付きのメイドから話を聞けたのですが、噂は地方でも広がっているようです」 「これで王家の求心力が落ち込まないのは逆に凄いわね」 「はい、これには貴族側も驚いていました。とは申しましても、以前よりかはずっと落ち込んでいるのも本当です。ただ……」 「ただ?」 「民衆は王家の不祥事を一種の娯楽と捉えているようです」 「あぁ、なるほどね」  王太子達の「やらかし」を面白がって見ているということね。それが悪い方向に変わらなければいいけれど……。  私はメイド達の言葉に頷くしかなかった。王太子の問題で賑わっているのは王都のみ。それも民達の口や目に入るところだけの話だもの。この問題で右往左往しているのは貴族階級だけ。一般庶民にしてみれば、それで税金が上がった訳でもなければ、取り引きが縮小された訳でもない。国民の多くにとって生活に支障を来す問題でさえなければ「どうでもいいこと」と捉えるものだわ。それに王太子は元々人気がある人のようね。いいえ、亡くなった王妃が民衆に人気があったというべきかしら?その人気を王太子が引き継いだ形になっているようね。 「亡き王妃は随分と慕われていたのね」 「はい。慈善活動に積極的だったそうです。若い頃は市井の民に交じってパンを配られた事もあったという話も聞きました」 「そうなのね」  この報告書では亡き王妃殿下は、美しく心優しい慈善家で、王家に嫁ぐ前から何かと市民とのふれあいを大切にしていたと書かれている。  王都民の王妃に対する人気は落ちていないところを鑑みると、あながち只の噂という訳ではないのでしょう。  
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