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5.侯爵令嬢side
私、フェリナ・メルケス侯爵令嬢はこのありえない裁判結果に内心焦っていました。それもそうでしょう。誰が見ても冤罪だと分かりそうなものを……有罪にするなんて。
「とんでもないことになったわ」
「如何なさいますか、お嬢様」
「決まっているでしょう。この事を一刻も早く王宮にいるお父様に伝えてちょうだい」
「畏まりました」
公爵家の、しかも王家の血を濃く引きついだヴァレリー公爵令嬢が女性を襲った罪で有罪ですって!?しかも、この国から追放だなんて……王太子殿下の命令でしょうか?裁判官は蒼白な顔色のまま、早口で判決文を読み上げていました。ガタガタと全身を震えさせて、誰がどう見ても必死に恐怖を堪えているのが分かります。顔から大量の汗まで流れ落ちていて、今にも倒れそうなのは暑苦しい服装のせいだけではないでしょう。これは王太子達が裏で手をまわしたと踏んで間違いないはず。
我が国は法の元に平等だと明文化されております。それは権力者による圧政をなくすために法律として導入されたもの。それを国の頂点に立つ王族が自ら破るなんて……。殿下はご自分が今どれほど危ない橋を渡っているのか理解されているのかしら?
特権によってヴァレリー公爵令嬢を断罪するという意味を――
王家としての権限を行使した以上は、国王陛下の責任において行っている内外に知らしめるもの。つまりこれは、国を挙げての宣言となりうるのです! それを理解しているのかいないのですか!?
それにしても、王太子殿下も考えられましたわね。
ちょうど今は陛下とヴァレリー公爵が同時に国外に出かけられている最中ですから、これ幸いとヴァレリー公爵令嬢を追い落としにかかるつもりなのでしょう。一見いい案のようですが、些か詰めが甘いですわ。
このような暴挙を国王陛下とヴァレリー公爵が認めるはずがありませんもの。お二人が戻られた時は一体どうなさるおつもりなのかしら?
「お嬢様、旦那様と連絡が取れました。至急、屋敷に戻られるとのことです」
「そう。では、私達も帰宅しましょう」
「畏まりました」
私は、ざわつく法廷を一瞥するとそのまま裁判所を後にしたのです。
勝利を讃える愚か者達。
その中に自分の婚約者がいると思うと頭が痛くなる思いですが、これも致し方ありません。
「残念ですわ」
オットー様とは良い関係を築けると思っていたのですけど。きっと私達には縁がなかったのでしょうね。私とオットー・ヴァレリー公爵子息との縁も数日以内に切れるでしょう。公爵閣下が戻られるまでに必要な書類を準備しなければなりませんもの。せいぜい、今だけは勝利を美酒を味わってくださいな。メルケス侯爵家は宮廷貴族。メリットのない男性を婿入りさせるほど落ちぶれてはいませんわ。たかだか子爵家出身の彼とわざわざ婚約をしたのは彼がヴァレリー公爵家の猶子だったからこそです。それが無くなると分かった段階でこの話はご破算というものですわ。
せっかく、公爵家の猶子になられたといいますのに何故それを不意にするような行為をなさるのか、私には理解できません。
公爵家の猶子でなくなった彼に待ち受けている未来は限りなく暗いでしょうに……。
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