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16.同じドレス1
その日の夜会、私は藤色のドレスを着ていたのだけれど……これはどういうことかしら?何故、ミレイ側妃が同じ色のドレスを着ているのかしら?そして、色だけではなくドレスに施されているデザインまでもが一緒だったのだけれど……?白薔薇の刺繍を散らしているわ。これは我が家の家紋だと知った上での狼藉かしら?それともミレイ側妃からの宣戦布告?……解らないわ。ミレイ側妃が何の理由で私と同じドレスを着ているのかしら?
周囲、特に高位貴族の女性達は私とミレイ側妃のドレスが同じと解った瞬間から騒然とし始めた。
「な、なんてことを……」
「非常識にも程がありますわ。王太子殿下は何故注意をなさらないの。ご自分の側妃でしょうに」
周囲の困惑した呟きが聞こえてきました。
明らかに動揺している人もいるわね。無理もないと思うのだけれども、私にはどうすることもできないわ。社交界でドレスが被ることはない。何しろオーダーメイドの品。勿論、流行もあるので当然似たようなデザインになることだってあるわ。それでも此処まで同じになる事はマズない。そう、相手に敵意がある場合を除いては……ね。
王太子殿下とミレイ側妃は、そんな周囲の雰囲気に気付いていないのか平然とした表情をしていらっしゃる。
そもそもドレスが被っている事にも気付いていない様子。
最初は喧嘩を売っているのかと思ったのだけれど、どうやら少し違うみたいだわ。それでも私は国賓として、また帝国貴族として、アクア王国の王太子とその側妃に恥を掻かされている事は明白。お二人に故意があろうがなかろうがそんなものは関係ない。他人が見てどう判断するかが問題なのだから。只でさえ、ミレイ側妃は私に対して日頃から無礼な態度を取り続けている。これで「知らなかった」は通用しない。絶対に故意にドレスを被らせたんだと周囲は判断した筈だわ。それを差し引いてもミレイ側妃の態度は酷すぎた。
穏便に済ませるつもりはありません。
だって、私は国賓ですもの。
他国に一定の配慮はしても国益に繋がるのならそれを見逃す手はありませんでしょう?寧ろ、隙を見せた彼らが悪いのです。
いざ、出陣!
重い気持ちを押し込めて足取り軽く元凶二人の元に優雅に歩いていく。
ふふっ。淑女教育の賜物。決して感情を露わにせず、けれど優雅に相手を制する。……本当は嫌なのだけれど。物凄く嫌なのだけれど。これをやらなければ私が、引いては帝国貴族が舐められる。それはあってはならない事!ええ!絶対に!!
最初が肝心なのだから私も心を鬼にしますわ。
平和主義者の元日本人としては妙に物騒な世界に生まれたものだと思い、心で涙を流すしかなかった。
「王太子殿下」
幕は開いた。
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