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22.マデリーンside
恐ろしい方です。
流石は帝国貴族と申すべきでしょうか。
いいえ、そうではありませんね。
彼女自身が恐ろしい方なのでしょう。
優しく寛大な面と酷く残酷な面をお持ちです。
私に王太子殿下を切り捨てる事などできるはずがありません。
自国の王子というからではなく、かと申して元婚約者だからといって庇うつもりはありません。
ただ、殿下は私の初恋の方なのです。
婚約が決まったのは殿下の母君。王妃殿下がお亡くなりになった直後でした。
嘆き悲しむ殿下を慰めているうちに、私はあの方に恋をしたのです。
ですが、もう――――
ブランシュ様主催のお茶会。
それは実質「お見合い」でした。
参加なさっていたのは第二王子殿下。
意外でした。
てっきり、第三王子殿下がいらっしゃるのかと思っていましたから。
どうやら帝国は第二王子殿下を押しているのですね。
第一王子殿下より優秀な方です。
異国の姫君を母に持っているというハンデを除けば適任でしょう。いいえ、今のこの国ではハンデにはなりません。寧ろ、非常に有利に働くでしょう。
年々減少していく国土。
他国に対して絶対的に優位になれる立場ではないのです。我が国は……。その事を王族の中で王太子殿下だけがご存じない。アクア王国が現状維持できているのは数々の国と同盟をしているからです。
そして今後、アクア王国に必要なのは帝国の庇護。
帝国の意図を読み取らなければこの国に未来はありません。
その日のお茶会はいつになく和やかに過ぎていきました。
少し無骨な面もありますが、思慮深く、私に気を配ってくださる第二王子殿下とは上手くやっていけそうな気がします。
数日後、お父様から謝罪と共に「国王陛下は王太子殿下を諦めた」と聞かされました。
やはりそうなりましたか。
これには帝国の意向も入っているのでしょう。
「殿下は臣籍降下する事になるのでしょうか?」
つい、聞いてしまいました。
答えなど分かっていますのに。
王太子殿下は恐らく、爵位と領地を与えられることに……。
「陛下は思案中だが、恐らくそうなるだろう」
「ならば、公爵位に就かれるのでしょうね」
「いや……」
「お父様?」
「公爵位は難しいかもしれん」
「……」
驚きのあまり言葉が出ませんでした。
王族が臣籍降下なさるなら爵位は「公爵位」と決まっております。
「ミレイ側妃が殿下の足を引っ張っているのは知っているな」
「はい……」
「帝国はお怒りだ」
「……そうでしょうね」
「王太子と側妃の言動は流石に目に余る。側妃のブランシュ様に対する態度はとても褒められたものではない。いや、既に各国から非難されている。それでも何の手立ても講じない王太子と王家に各国は不信感を抱いているのが現状だ。信用ならない国に支援を行う価値はないと声高に言う国も出てきている程だ」
「お父様……」
恐れていた事が起こっているようです。
この国は今、非常に危い立場に追いやられています。
今は未だ国の上層部しか知りませんが、いずれ他の貴族にも知れ渡る事になるでしょう。この国に今起こっている事を。いいえ。察しの良い貴族は秘かに領地に戻る者が増えています。中央貴族は「側妃の件があるから」と思っているのかもしれませんがそれは表向きの理由に過ぎません。皆、王都でこれから起こる事態に備えて領地に戻っているのです。
「お前は何も心配する事はない」
お父様はそう言うと口を閉ざしました。
私もそれ以上聞く事はできません。
こうして私は、アクア王国の公爵令嬢としての務めを果たすべく準備を始めたのです。
数日後、私の婚約が決まりました。
相手は第二王子殿下。
この婚約は内々に決まり、発表は後日になったのです。
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