27.思惑3

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27.思惑3

 世の中分からないものだわ。  まさか彼が第三王子だったなんて。 「正装姿もよくお似合いだわ」  私は目の前にいる元クラスメイトに賛辞を贈る。  金色の髪は、私が知っているものより輝きを増し、白磁のごとき白い肌に真紅のタキシードが良く映えて見える。もともと綺麗な顔立ちをしているとは思ってはいたけれど、学園時代は特に印象がなかった。どちらかというと影が薄いというか印象に残りにくいタイプだったと思う。今思えば、意図して気配を薄くしていたのかもしれない。 「それはヴァレリー公爵令嬢の方でしょう。ロクサーヌ王国の頃より輝いてますよ、帝国の水が余程あったようですね」 「おかげさまで。何しろ、帝国にはアホで馬鹿な存在はいませんもの」 「はははっ。確かに。アレは相当でしたから」 「アホで馬鹿でも地位と権力を持っているから厄介ですわよね」 「ええ、それはこちらも同じです」 「貴男が身分を隠し名前まで変えてロクサーヌ王国に滞在していた理由が少しわかりましたわ」 「僕では彼らに立ち向かえませんから。かといって二番目の兄上のように留学出来る身でもありませんでした。我が国は保守的ですから。一介の貴族なら兎も角、王族は自国の学校に通うか家庭教師を雇って家で学ぶ。国外に出る事を良しとしない風潮ですから」 「そのようですね」 「僕の場合、第三王子で影が薄かったのもありますが、母方の実家がロクサーヌ王国に遠縁がいましたから何とかなったようなものです」 「それにしては随分と()()()()()()でしたわ。私もこちらの国にくるまで貴男が第三王子殿下とは気付きもしませんでしたもの。()()()()()()()()()()()()ですこと。慣れていらっしゃるのかしら?」 「まさか。ロクサーヌ王国では何時バレるのかとヒヤヒヤしてました」 「本当に?」 「ええ。本当に」 「まぁ、そういう事にしておきましょう。その方がお互いの良い関係を築けますものね」 「ヴァレリー公爵令嬢は相変わらずだ」 「それは良い意味でかしら?」 「勿論、良い意味で、ですよ」 「ところで、貴男が留学してた件は陛下や上層部は御存知なのかしら?」 「いいえ、知りません。なにせ僕は“病弱な第三王子”ですから。国から出る事なんて考えもつかない事ですよ。母方の実家の伯爵邸から外に出る事すら思いつかないと思いますよ?」  実際にそういう噂は流れてますものね。  か弱い第三王子は王都まで来れるだけの体力はない、と――  まったく。  一体誰が流した噂なのかしら。当の本人はこうも元気いっぱいだと言うのに。けれど、これで判明したわ。第三王子殿下の母君の実家。可もなく不可もなしの伯爵家という前情報は嘘ね。表向きの内情に過ぎないというのは、これで明らかになりました。恐らく伯爵家は王国の裏を担っている一族だと考えて間違いないでしょう。となれば、第三王子殿下が素性を隠してロクサーヌ王国に来ていたのは隠密行動と考えるべきだわ。そして彼もまたそれを否定しない。 「では、()()()()()()()()ですわね」 「ええ、()()です」  そうして私は食えない王子様に見送られてアクア王国を後にし、大きな問題に直面する事なく帝国へと帰国する事が出来ました。  唯一の問題を除いて──
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