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32.新たな婚約
「それはそうと、ブランシュ」
「はい」
「この度の褒美に、そなたに縁談の話が来ている」
「……」
「相手は隣国のオーファンラスター公爵家の子息だ」
「……そう、ですか」
一瞬、言葉を失ってしまいました。
まさか、このような事態になるとは想像もしていませんでしたから。
ただの政略結婚だと割り切れば問題のない事ですが、何故でしょう。素直に喜べません。
オーファンラスター公爵家。
確か隣国では名門中の名門一族。王家との繋がりが深いと耳にした記憶があります。
公爵家の子息達は揃って眉目秀麗という噂も帝国ではかなり有名です。
貴族の令嬢達は誰もが羨む良縁ですのに……。
何でしょう。嬉しいというより、不穏な空気を感じますわ。
私の反応を見た父が苦笑しています。きっと私の心境に気付いたのでしょう。困った子を見る目つきをしていました。
「ブランシュよ、これは皇帝命令であるぞ」
父は真面目な顔で告げてきました。
つまりは拒否権なし、という訳ですね。益々、不穏な空気を感じます。
「承知いたしましたわ、お父様。喜んでお受け致します」
拒否など出来る訳もなく、私は答えます。
私の返事を聞いた父は安心した様子で、笑いました。
「うむ、先方もブランシュを『是非息子の嫁に』と、熱心に望んできた。お前から良い返事が来るまで粘り続けると冗談交じりで言っていたぞ」
それは本当に冗談でしょうか?
本気で言っているのかもしれませんわね。
オーファンラスター公爵家からの申し出。
何かしら真意がありそうですわね。
これは……ただの婚約ではなさそうです。
「顔合わせは追って知らせる」
「はい、お父様」
部屋を出た私は深く溜息をつきました。
新たな婚約者。
婿入り候補が出来た事は喜ばしい事なのかもしれませんが……。
はぁ……。
アクア王国から戻って来たばかりですのに。
お父様達は私に何をさせようと企んでいるのかしら?
余計な厄介事を抱えて来なければいいのですが……。
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