プロローグ

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プロローグ

ーあの日から一ヶ月後ー 梅雨が明けてしまった。長い長い梅雨だった。 母が仕事から帰宅してからというもの、付けっぱなしになっていたテレビは垂れ流され続け、彼女は既に眠っていた。夕方のワイドショーの音声が漏れ聞こえている。 「今年の七月の東京は、雨が全く降らなかった日が一日しかなかったんです。これは観測史上においても約三十年ぶりの事で…」  サトルは、その音声を特に聞こうと意識していたわけではなかったが、その部分が耳に残る。そんなニュースをしている今日は快晴だった。  5階建ての市営住宅の501号室。部屋の街を見晴らすことができる窓辺で、久しぶりに降り注ぐ日差しに色めく街をサトルはぼんやりと眺めていた。  蜃気楼が浮かび上がりそうな暑い街並みを眺めているとなんだか、どうでもいいことを考え、思い出してしまう。  サトルにとって一番古い記憶。
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