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(に、逃げなきゃ……っ!)
グリーンチューブに戻ろうとしたが、こちら側から押しても開かない仕様らしく、白い扉はびくともしない。檻の中で右往左往するロビーを、巨大な目玉が愉快そうに見つめていた。
「オーダー入ります! 若ネズミの姿焼き2つ! ネズミハンバーグ150グラム4つ! 子ネズミのおどり焼き1つ!」
天井から、耳をつんざく轟音が響いた。すると厨房にいたニンゲンたちが、壁の仲間を次々に外してカゴに入れていく。呆然とそれを見ていたロビーを指差して、近くのニンゲンが身も凍るような声を張り上げた。
「おおい、おどり焼きなら、今貯蔵室から上がって来たばっかで元気なのがいるぞ!」
ニンゲンの言葉は分からない。けれど、自分が絶対絶命の危機であることだけは理解できた。
頭上で檻の蓋が開く。巨大な手が容赦なく、身を縮めるロビーの体を鷲掴みにした。
(ひ……っ)
あまりの恐怖で気を失ったことは、ロビーにとって幸いだったのかもしれない。
彼が最後に見たものは、ニンゲンのエプロンの胸元。そこには、満面の笑みでナイフとフォークを持つネズミのイラストと、店名のロゴがプリントされていた。
ネズミ料理専門店
Happy Rat Paradise
【了】
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