悪女になんかさせない

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 ディナータイム前のカフェ。  ゆりなはそわそわとしながら、壁にかけられている時計を見ていた。 (あと5分……あと5分で終わる……!)  店に入ってきた客に声をかける。 「いらっしゃいませ。お食事は店内でされますか?」 「持ち帰りで、抹茶フラペチーノ、豆乳に変更で。あとチーズケーキとワッフル」 「はい、かしこまりました。以上でよろしいですか?」 「うん」  つっけんどんな態度の客にも、もはや今のゆりなには何も思うところはない。 「お会計1790円です」 「……」  出された2,000円を預かりお釣りを渡す。  後ろでオーダーを聞いていた店長が抹茶フラペチーノを作り始めている様子を脇目で確認した。 「お返しの210円です。番号でお呼びしますので、右側でお待ちくださいませ」  そう客に伝えて、自分もチーズケーキとワッフルの準備をする。もう手元から、そのゆりなのうきうきとした様子が伝わってくるようだった。  客に出来上がったオーダー分を手渡し、その後ろ姿を見送る。それからすぐ時計を見送ると、定時を少し過ぎていた。 「あのっ、店長! 帰っても、いいですか?」 「ああ、いいよ。おつかれ」 「ありがとうございます、お疲れ様でした」 「あ、バイトのシフト出してって」 「はい! では失礼します」  頭を下げてバックヤードへ向かう。その瞬間のゆりなの表情は幸せそうにほころんでいた。
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