悪女になんかさせない

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「家族もいなくて、生まれ故郷も遠いのか……」 「あ……はい……そうなりますね……」 「なら、私と一緒に来るか?」  そう言った瞬間のロザリーの表情は、揺られる炎の加減もあってあまりにも美しかった。それにどきりとゆりなの鼓動が高鳴る。  しかし、アシュトンは横からロザリー様、と小さくたしなめた。それもそうだろう、自分が戦争孤児でロザリーの上司で祖父にあたる前騎士団長に連れてこられた際、祖父はひどく純血主義の議員たちからそしりを受けた。アシュトンはそれをロザリーに重ねているのだろう。まだ祖父は求心力があったほうだが、それでも反対はひどかった。しかしなんとか時間を重ね、祖父はアシュトンを副団長まで押し上げたのだ。 「まぁ、ユリナ、そなた次第だが」 「……」  ゆりなは言葉に詰まってしまった。ロザリーがアシュトンのときのようにそしりを受けるのは嫌だ。でも、ここに置いて行かれても生きていける自信はない。ここで死なないためには、無理を言ってでも連れて行ってもらうしかない。しかし、アシュトンは剣の実力があったからまだ良かったものの、自分には何ができるだろう。 「あの……」 「ん?」 「私は、もし連れて行ってもらえるなら、どんなお仕事をすればいいでしょうか」 「仕事? そのようなこと気にせずともよい」 「いや、なにかお役に立てるってわかってからじゃないと、連れて行ってくださいなんて───」 「では、私の小間使になってくれないか。前まではアシュトンが担ってくれていたが、仕事が多くてアシュトンから誰かに引き継ごうとしていたところなんだ」 「でも、私なんかでお役に立てますか……?」 「どうかな。それはそなた次第だ。来てくれるか?」  ロザリーが私を試している、とゆりなは直感的に感じた。そしてこれに応じなければとも。 「はい、行かせてください」 「よい返事だ。では、今日はもう寝るとしよう。明日早くにここを発つ。アシュトン、見張りだけ立てておいてくれ」 「はい」 「ユリナ、一緒においで」  立ち上がったロザリーにならって、立ち上がる。アシュトンに軽い会釈をして、ロザリーのあとをついていった。
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