悪女になんかさせない

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 ロザリーのキャンプは、他とは少し離れたところにあった。 (騎士団は男所帯だから、見張り二人以外は少し遠いんだよね……)  キャンプの中に入ると、ロザリーが毛布を出してくれた。 「その髪、結ったまま寝るのではないだろう?」 「はい……」 「私が髪をとかしてあげよう。おいで」  ロザリーは軍服のボタンを外し、ジャケットを脱ぐと鏡の前にゆりなを呼び寄せた。 「そなたはいくつだ?」 「今、20歳です」 「そうか、やはりな」 「やはりっていうのは……?」 「そのくらいだと思っていたのだ。見たときから」 (ああ、そういうことか……) くしで優しく髪をとかしてくれるのが心地よい。 「私には……そなたくらいの妹がいてな」 「えっ? そうなんですか?」 (そんなこと、小説には書いてなかったけど……)  ゆりなはとっさに自分の記憶を掘り起こす。何度も読み返したが、思い当たる記憶はない。 「妹さんは今、何をされているんですか?」 「死んだよ」 「えっ……ごめんなさい」 「いや、そう気遣うな。もうとうに昔のことだ」 (だから小説には書かれてなかったのかな……)  ゆりなは踏み込んではいけないラインを超えた気がして、申し訳ない気持ちになった。
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