悪女になんかさせない

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「では……書類整理をするということですので、そこからお教えします」  アシュトンは戦争孤児から騎士団入隊という経歴から、あまり女性と関わったことがない。そのうぶな様子からも女性人気が高く、容姿端麗な見た目であることから作者からも一目置かれていると言われているキャラクターだ。 (確かに、顔はかっこいい……)  書類整理の仕事を教えてくれているアシュトンを盗み見て思う。 (でも、ロザリー様のほうが私にはかっこよく見えちゃうんだよなぁ……フォロワーさんに知られたら、ものすごく羨ましがられそう……)  アシュトンから仕事に必要な事項を教わり、早速必要のある場所に判を押して届けることになった。 (まずは……書庫か)  アシュトンはゆりなに城内の地図を手渡してきたが、何千回と挿絵で間取り図を見ているゆりなにとっては不要なものだった。  部屋から廊下に出て、書庫への道を歩き出す。すると、どこかの廊下から微かにロザリーの声が聞こえてくる気がした。しかもそれが、良い声音ではないことが伝わってくる。 (ん? ロザリー様の声……?)  足音を響かせないよう慎重に近づくと、議員何名かがロザリーの行く先を塞ぐように経っていた。その中には、例のフンバリル議員もいる。 「ところで、あなたに良い贈り物があるのですよ」 「なんでしょうか」 「手をお出しなさい」  一人の議員がロザリーに手を出すよう促す。  なぜかわからずロザリーが手を出すと、なにやら白い封筒が手渡された。 「自分の立ち回りを、少しは考えなさい」  そうフンバリル議員が言うと、議員たちは揃ってどこかに去っていった。その際に見たニヤついた笑顔で、悪い予感が騒ぐ。  残されたロザリーが包みを開けて、ぐっと顔がゆがんだのがわかった。 「ロザリー様……!」  ゆりなは慌てて飛び出し、ロザリーに近寄る。 「ゆりなか。なぜここに?」 「これから書庫へ行こうと思って……たまたま通りかかったんで───」  そう言って手元の封筒を見た瞬間、ゆりなも言葉に詰まった。 「そ、れ……」  ロザリーの手にのっていたのは、釘が刺されたカエルの死体。 「妙なところを見せてしまったな」 「いえ……」 「せめて釘を抜いて埋葬してやろう。私のせいで、小さな命が犠牲になってしまった」  ロザリーは冷静にそれだけ言うと、近くの中庭から外へ出た。ゆりなもそれについて行く。 「こういうことは、私の行動が災いしているのだ。だから私をいたぶるのは構わない」 「……」 「だが、他の者に危害が及ぶのは嫌だ。ユリナ。何かあったら、全力で逃げるのだぞ。私が全力で守る」 「はい……」  一生懸命カエルを埋葬しているロザリーの横顔を見て、ゆりなの心が痛む。 (この人は……こういう優しさを小説の中では出すことがなかった……だから氷の女王なんて言われて……)  隠れた優しさを、この世界の誰も知らない。 (私はこの人を、あの運命から救って見せる!)  ゆりなは手をギュッと握りしめて、心を決めたのだった。
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