悪女になんかさせない

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 最寄り駅から、自宅への帰り道の途中。  ゆりなは『プリセシア王国伝記』の最新刊である12巻を胸に抱き、足早に歩いていた。 (前巻でめっちゃ気になるところで終わってたんだよね~! これからロザリー様の活躍が見れる……!)  バッグからスマホを取り出し、SNSを開く。  『プリセシア王国伝記』専用アカウントで、新刊ゲットの報告をつぶやいた。 『プリ伝12巻ゲット~! 早く読みたいぃぃぃ!』  するとすぐにいくつかのリプライがつく。 『11巻の最後、戦争に行く準備してたから、最新刊ではロザリー様が戦争の指揮を執るシーン見られそうだよね』 『ロザリーの活躍タイム来たね!」  リプライを一つひとつ読んではウンウンとうなずいてしまう。  ロザリー・アントワは、『プリセシア王国伝記』の作中に出てくる女騎士団長のことだ。  作中では「氷の女王」とまで呼ばれてしまうほど、沈着冷静、ときには冷徹な判断を下すこともある、いわゆる悪女ポジションの女キャラクターで、その男部下のアシュトンが作品での一番人気キャラクターでもある。  ロザリーはそのアシュトンの温厚で正義感が強く、優しい性格と対比されるかのようにきつく冷たいキャラだとして描かれているが、実生活で優柔不断なゆりなには、その姿がとっても魅力的に映っていた。 (ロザリー様の活躍を早く見なくちゃ!)  ゆりなは転ばないように作品をひしと抱えながら、小走りで自宅へと向かった。
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