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しかしその数時間後。
(どうしてロザリー様が、こんなことに……?)
12巻は、ロザリーが戦争遠征に出たところから始まった。ロザリーは騎士団長として、遠征先で活躍し、無事に祖国を勝利に導いた。ここまではゆりなもほくほく顔で読み進めていた。
しかし、戦争死傷者の中に議員であるフンバリル家の息子がいたのだった。フンバリル家は代々議員として王に仕えており、その息子はロザリーとともに騎士団長候補として有力視されていたものの実力が伴わず、結果として前騎士団長から指名されたのはロザリーだったという経緯がある。
そのことをよく思わなかったフンバリル議員は、もとからロザリーに恨みを持っていたのだ。
そこから、傍聴席にいた議員たちによるロザリーへの責任追及の声が上がり始めた。
そしていよいよ裁判となり、議員たちの不満が噴出する。
「そもそも今回、ロザリーが王様に戦争に行くと言わなければ、この戦争はなかった」
「戦争のきっかけをつくり、祖国を危険な目に合わせた」
「戦争を回避する方法があったはずだ」
「氷の女王は、殺戮がしたいために戦争の機運を引き寄せた」
裁判はほとんど一方的だった。この国で、議員たちに立ち向かおうとする弁護人はいない。ロザリーを擁護するのは、傍聴席で聞いていたアシュトンだけだった。
「異議があります。ロザリー様はできる限りを尽くしました。戦争は避けられないものだったと思います。たとえロザリー様がいようがいなかろうが」
「どうだろうな。アントワ騎士団長は普段から好戦的なようだ」
「好戦的ではありません、冷静な判断が下せるだけです」
「物は言いようだな。普段から強硬な姿勢を見せるからこうなるのでは」
「……」
アシュトンは黙り込んだ。ここにいるほとんど全員が、この議員の仲間だ。有力議員に歯向かえば、この先何世代も影響が出てくるだろう。
「……これが本来あるべき平等な裁判の姿ですか?」
「ふん、誰が裁判を平等なものだと言った?」
「ここは法治国家です。一部の既得権益支配層の誘発で裁判結果が変わってはならない───」
「アシュトン」
熱くなったアシュトンを、ロザリーの低い声が制止する。
「もういい」
「そんな……!」
「私は、今回の罪を引き受けます。ただ、彼はまだ若い。剣の実力もあります。どうか、私が去ったあとも、公平な扱いをよろしくお願いいたします」
ロザリーは傍聴席に向かって、深く腰を曲げて礼をした。
「では、判決を伝える。被告人を、斬首刑に処す───」
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