悪女になんかさせない

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「アシュトン、すぐに私の古い靴を持ってきてくれないか?」 「わかりました」  アシュトンも、ゆりなの足元を見てすぐに古い靴を取りに立ち去る。  その姿を見送ったロザリーが、もう一度ゆりなのほうを振り返った。 「そなた、名前はなんという?」 「ゆりな……です」 「そうか、ユリナ。ここは危険だ。移動しよう。私におぶさって」  ロザリーはゆりなに背中を向け、おぶされるように腰をかがめた。  しかしゆりなは慌てて顔の前で手を横に振る。 「い、いやいやいや! そんな、ロザリー様に私の体重をかけるなど……!」 「私の名前を知っているのか?」  不思議そうなロザリーの顔を見てはっとしたが、すぐにゆりなは頭をフル回転させる。 「あ……さっき、男の人が言っていたので……!」 (知ってますとも!! 私の最推しですから……!)  なんとか取り繕ったが、内申では全く違うことを考えていた。 「ロザリー様、靴お持ちしました」 「ああ、早かったな」  靴を持ってきたアシュトンから古い靴を受け取ると、ロザリーは自分が履いていた新しい靴をゆりなに差し出す。 「えっ、私、古い靴で大丈夫ですよ……?」 「こっちは少し耐熱性が低いから、地面を歩くのには危ない。こっちのほうがいい」  そう言ってゆりなに靴を履かせて、その紐を結んでくれる。 (ロザリー様……見ず知らずの私にも優しい……。戦争孤児だったアシュトンにも、優しかったもんね……)  これはロザリーの特別ではないのだ、と思うと少し胸が痛いが、戦場で不遇な目にあっている一般人をロザリーは放っておけないのだ。そういう隠れた優しさも、ゆりなは大好きだった。
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