第四章 青灰色の狼アモン

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「理由ならある」  相田がその場で拳を素早く中段から伸ばし、すぐに引き抜く。すると、アモンは襟首を誰かに引っ張られたかのように後方へと吹き飛んだ。 「………う」  隣に誰もいなくなってから吹く強風が体を擦る。シドリーはその場から一歩も動けず、数度の呼吸を忘れていた。  アモンは地面の砂を巻き上げながら横に縦にと回転が止まらず、十メートル程吹き飛ばされて、ようやく静止する。 「先生。あれでは秒単位で死んでしまいます」 「心配するな。あくまで吹き飛ぶまで、だ。そこから先は《イメージ》していない。悪いが回復を頼む」  アイムの小言に、相田が鼻で笑って返す。彼女は、仕方がないと小さな溜息交じりに歩き出し、アモンの横で膝をつくと全身擦過傷の体に回復魔法をかけた。  回復が始まった様子を相田が確認するまでの数秒間、シドリーとの間に無為な時間が過ぎる。  相田は視線をシドリーに戻した。 「シドリー。君は、アモンが勝つと思っていたかい?」 「それは―――」  皆無ではない。だが彼女が思うアモンの勝率は、その程度だった。だが、何かしら反論しなければならない。彼女は顎を引きながらも何とか口を開く。 「私は、彼の性格を―――」「尊重したと? 勝てる見込みのない戦いに仲間を向かわせる。それは、君と彼の関係から正しい判断だったと言えるのか?」  仲間。その言葉に、いささか異論はあるものの、シドリーはその点以外で、反論できる言葉を探し続ける。  だが、相田の方が早かった。 「命よりも相手を尊重する方が大切だというのであれば、それも結構。だが、時と場合によっては、相手の意志を曲げてでも、事を成さなければならない時があると知るべきだ」  叶わずとも最初からシドリーも参加し、2対1の勝負ができるよう提案する選択肢もあったのではないかと、相田が問う。それを『卑怯』ではなく、『交渉』として勝ち取ったとすれば、感情的にも随分と納得できる展開になったはずだと説く。
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