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「仮に彼が勝って望む環境を手にしていたら、君は喜んでそれを受け入れる事が出来たか? できないだろう。君はそういう性格だ」
事実だった。アモンが勝てるはずもない戦いと感じたからこそ、自分自身の境遇が変わる勝負を持ち出されても、彼女は拒否しなかった。つまるところ、自分はアモンの勝利を願っていなかったのだと、シドリーの視線が泳ぐ。
相田が畳みかける。
「君の望む未来が何かは分からないが………他者を理解せず、守ろうとしない者に士官は務まらない。早晩、君は身の丈に合わない決断を迫られ、そして死ぬ事になるだろう」
シドリーの背後から自然と異なる風が吹く。
全身から血をまき散らすアモンが、シドリーの前を颯爽と越え、相田へと向かっていった。
「アモン君! まだ回復が終わっていない! 死んでしまうよっ!?」
アイムの声が響く。
「アモン!? お前、待てっ!」
我に返ったシドリーが止めに入ろうと手を伸ばすが、彼の腕を掴むことは叶わなかった。
「てめぇにあいつの何が分かるってぇんだよぁああっ!」
肉が焦げる匂いと共に、アモンの右腕は肘から燃え上がっている。そして、その拳は相田の左頬を狙っていた。
「気合は良し。だが、直情過ぎるのが君の弱点だ」
相田は左手を上げると、手のひらから生み出した障壁で彼の決死の一撃を容易く受け止める。
アモンの顔に相田の冷静な表情が睨みつけた。
「兵を率いる士官であれば、感情だけの判断は無駄に被害を増やす」
そう言って、相田は空いた右手で拳を握り、中段から上へと彼の顎を狙い、振り上げる。
「………むっ!?」
相田の横目にもう1つの拳が入る。相田は振り上げた腕の筋肉を軋ませて無理矢理止めると、右腕とさらに持ち上げた右膝で障壁を張り、シドリーの回し蹴りを受け止めた。
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