第四章 青灰色の狼アモン

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―――3日後。 「アモン。準備は終わったか? これ以上は時間に遅れるぞ?」  煩いと思いつつも、いつもの時間に来ないというのも存外不安になる。シドリーは入学以来、初めて幼馴染の扉を叩いた。    返事がない。ただの寝坊の様だ。 「成程。これが待たされるという気持ちか」  そう言い、腕を組む。  僅かだが、()の心理が理解できたとシドリーが息を吐く。理由は異なるが、相手の事を急かすとはこのような気持ちなのだと自嘲した。  だが、時間は刻一刻と進んでいく。 「いい加減にしろ、アモン。今何時だと思ってるんだ。もう7時だぞ。この馬鹿狼が」  自分の声が届かないのか、それとも聞いていない程に熟睡しているのか。恐らく後者なのだろうが、既に複数の生徒が準備を終えて次々と部屋を出ていく姿を背後で見送っていく。 「………まだ痛むな」  鞄を持つ肩に痛みが走った。  殆どの荷物は木箱に詰め終えて寮の前に停めた馬車に乗せている。だが、僅かな荷物の重さであっても、体の中に残った戦いの名残がシドリーの顔を歪ませる。アイムの治療によって外傷は完全に癒えているが、回復魔法は外に比べ、体内の治療は見えない所ほど効果が薄くなる。内出血や骨折等、重症化しやすい部分は、触診などの間接的な確認で治療できるが、打撲程度の傷は自然治癒に委ねられる事が多かった。  その痛みが、待たされる苛立ちとなって彼女の気持ちが大きくなる。 「入るぞ」  これ以上は埒が明かないと、シドリーがドアノブに手をかけたが、取っ手の球体は簡単に半周し、部屋に入る者を無条件に招き入れた。
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