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遠くから歓声が巻き上がった。
どうやら決着がついたらしい。直前まで震えていた同族の少女が、自分の身長よりも高い鉄斧を抱きながら何度もこちらを振り返っていたことを思い出す。初めて見た顔だったが、あのような表情で勝てる程、この試験は優しくはない。
勝者も敗者も、この部屋には戻ってこれない仕様だが、彼女には闘技場に向かった少女が生き残る光景が思い浮かばなかった。
挑んだ以上、諦めることも戻ることも許されない一方通行の細道。今頃猛獣の喉を通り胃袋へと誘導されたに違いない。せめて手足の1本でも家族の元へと戻れば御の字といったところか。
彼女は再び『自分とは違う』と含み笑い、そう言い聞かせた。
歓声が一斉に静まる。
1時間近く待たされたが、ようやくの出番である。
光の奥から、部屋に残された1人の名が呼ばれた。本日最後の受験者と紹介される声が通路を抜けて木霊する。
この試験を突破しなければ、これまでの人生が全て無駄になる。貧しい生活の中、初等教育すら満足に受けられず、学校の窓越しに聞いた授業を必死に記憶し、貧民同士の小競り合いで戦う技を身に付け、ついには国立士官学校の入学試験の基準を満たした。この努力の結果は誰にも侵すことはできない。
少女はこれまでの時間を振り返り、静かに立ち上がった。
「私は、もっと強く………そう、魔人になるんだ」
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