第四章 青灰色の狼アモン

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「さぁさぁ! 触れると火傷じゃ済まねぇぞぉぉあ!」  雄叫び、アモンが再度突進する。  右足で地面を蹴り砕き、筋肉で膨れる右腕の大振り。燃える右手は、炎によって空気が破ける独特な音と共に、相田の左肩から斜めへと振り下ろされた。  それでも、相田は動じない。 「見た目は派手だが、所詮は拳の一振りに過ぎない………まだまだだ」  片足で地面を軽く蹴って後方へ、時には側面へと回避する。相田は、爪先と踵でリズムを取るように上下左右へと軽く跳ねながらアモンの連撃を全て避けていた。 「何故だ、何故………俺の拳がっ、当たらねぇっ!」 「そいつぁ………素人(坊や)だからさ。確かに地元での喧嘩(遊び)なら、これで十分通じるのだろうな」  炎の残滓を巻き散らかし、アモンの両手が何度も空を切る。相田は先程からリズムを取り続けているだけだが、素早いアモンの攻撃に合わせるように上半身を捻り、その拳に触れることなく舞い続ける。 「だが、これが戦なら、君程度の攻撃では全く通用しない」 「お、俺の喧嘩が遊びだとっ! てんめぇぇぇぇっ!」  感情に比例して腕の振りが加速していくが、相田はアモンの攻撃に合わせてリズムを刻み直し続ける。だが、それでも全てを捌き切れなかったのか、数度の攻撃が相田の衣服を焦がし始めた。 「通じるか?」  拳が次第に強く握られていく。シドリーが沈黙のまま2人の戦いを凝視し続けていた。  確かに、避け続けるだけでも体力を消費し続ける。当然、アモンの速さが増せば、その疲労も増大する。彼の言い方ではないが、戦闘が長引けば長引く程、人間よりも体力のある亜人が有利に働くことは間違いないのである。 「いける………か?」 「さぁ、どれはどうでしょうか。たとえ事実でも、全ての人間が亜人よりも体力が劣っていると考えるのは危険ですね」 「っ!?」  シドリーが目を見開き、振り向いた。
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