第四章 青灰色の狼アモン

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「………い、いつの間に」  シドリーの顔の前には、同族(バステト)の顔があった。シドリーよりも頭1つ高く、体毛は黒一色だが、両腕に黄色い毛が数本走っている。猫亜人(バステト)族を象徴する正装、一人前の証である白黒のメイド服を纏った女性がそこに立っていた。  彼女の気配どころか、足音すら聞こえなかった。かといって上空を飛んできた気配もない。未だ学生という思考は捨てていないが、それでも全く気が付くことが出来なかったシドリーは一歩後ずさり、当然ながら警戒した。 「遅いぞ、アイム」  アモンの攻撃が止んだ隙を見て、相田が横を向く。注意としては随分と軽い。  アイムと呼ばれた猫亜人(バステト)は、スカートの裾を軽く持ち上げると丁寧に頭を下げた。 「申し訳ありません。夕飯の買い物に時間がかかってしまいました」  ですが、とアイムがシドリーを見る。 「代役には事足りなかったようですね」  そう言って小さく笑う。  だが、彼女の名前を耳にしたシドリーは、その言葉が体に入るや、目を見開いていた。 「アイム………まさか、あの灼追(あかおい)のっ!?」 ―――灼追(あかおい)のアイム。  2年前のグリムニール士官学校の首席卒業生であり、学生時代において、あらゆる攻撃を逃がす事なく弾き返してきたことから、彼女の名前は、いつしかその二つ名で呼ばれるようになった。  二つ名を与えられるのは、この国で魔人と称される資格をもつ77()のみ。彼女は士官学校を卒業後、魔王軍へと入隊し、今では上級士官、77柱の候補者まで上り詰めている。同族の間では歴代最強にして、初代魔人筆頭の猫亜人(バステト)族、コルティの再来とも評された程である。  自らの目標としている魔人に最も近い彼女(アイム)は、シドリーが尊敬する数少ない人物の1人であった。
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