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「何故………あなたがここに」
「とある方に、見届けを急遽依頼されまして」
彼女の視線の先が全てを語る。
―――またか。
シドリーの顔が強く張り詰めていく。
闘技場の使用許可に次いで、名のある上級士官を即座に呼び出せる権限。それは既に一教師としての権限を大きく越えていた。
「このまま彼の時間切れを狙うおつもりですか? 先生」
応援と呼ぶには、意地の悪いアイムの掛け声が相田に届けられる。
「全く………馬鹿を言うな」
そう言うと、相田は足を止め、アモンの正拳突きを正面から凝視した。亜人の、それも狼亜人の一撃を受ければ、人間の顔は何も残らない。
だが、彼の拳は相田の鼻先で停止した。
「………な、何じゃこりゃぁぁっ!!」
拳を突き出したまま、アモンが驚愕した。するしかなかった。
「―――出た」
ついに、とシドリーが呟く。アモンの燃え滾る赤い拳は、相田に届く直前、絹のように薄い漆黒の障壁によって受け止められていた。
「闇のアイギス」「っ!?」
アイムがその名を紡ぐ。
「物理、魔法に関わらず、森羅万象あらゆる攻撃を受け付けない絶対にして最強の守り………その顔を見るに、あなたは既に見た事があるのですね」
アモンに対して驚きが少なかったシドリーを見て、アイムがそう理解する。
「私にとって目標の1つでしたが、結局、卒業するまでにあの技を破る事が出来ませんでした」
「………あなたの技をもってしてもですか」
シドリーの中で、あの盾の恐ろしさが上書きされる。既に相田は回避行動を終えており、少しずつ後退しながらアモンの連撃を目で追いかけ、彼の攻撃を黒い障壁で受け止めていた。
歩くだけの相田と全力で殴り続けるアモン。体力の消費量の差は歴然であった。
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