天使

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 ふとどこからか声が聞こえた。知っているようで、知らない誰かの声。懐かしい気持ちになる声。まだ僕が小さかった時に何度か出会った少女の残影が僕の脳裏に蘇る。お互いに名前を知らなかったから、彼女は僕のことを決まって「少年」と呼んでいた。誰だったっけ? ていうか、何で今それを思い出してるんだろう。  僕は再び前を向いて歩きだす。でもまた数歩先で足を止めた。 「──っ」  西洋の絵画では神聖性を表現する為に、頭上に光輪を描くらしい。その知識を知ったのは、僕がまだ小さい時。名前も知らない彼女に出会った時だ。そう、彼女の頭には光輪があった。そして小さな体に似合う小さな羽を生やしていた。  僕は、小さい時に天使に。どうして今まで忘れていたのだろう。僕が小さい時に出会ったのは、先程の天使ではないか。  僕は踵を返して教会へと向かった。もう一度、彼女に会いたい。教会のドアに手を伸ばす。ドアノブをゆっくりと捻る。そして、足を止めた。 「あれ、俺今教会に入ろうと……?」  僕は頭をポリポリと掻いて、踵を返した。学校への道のりを歩き始める。  そんな少年の姿を、空から一人の少女が眺めていた。頭上には光輪があり、背中からは大きな羽が生えている。彼女は学校へと向かう彼を見つめて、ふふふと可憐な笑みを浮かべた。 「ごめんね、少年。そういうなんだ。天使は人間とは出会ってはいけないんだよ。でもまた会えて嬉しかったよ。私がいなくても、頑張るんだよ」  少年の姿が段々と小さくなっていく。天使は少年に向かって手を振りながら、ニコニコ笑った。 「またルール破って会いに行くからさ。その時は時間内に私のことを思い出してよね、少年。事故はだしね」  そう言い残して、天使は消えた。それはそれは、魔法のように。
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