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⑮' 群青のテーゼ
アンヌさんたちを見送って、早 数十分。作戦開始の合図は未だ鳴らない。この歪な雷雲へ、約束のツバは吐かれていない。
己の手でこの地を拓いた兵士達も、奇抜なライフルを背に森へとちりばめられた。
一度落ちた落雷が、もう一度落ちようとするのを阻止するため、〆を担う彼女たちも、決戦の地へと向かっていった。
ココに残ったのは二人だけ。ヒトの気が失せたキャンプ場には、勇敢な者達からアブくれた、狙撃担当と回復担当だけが残っていた。
「準備は上々かヨ、」
「ああ、抜かりはない」
頭上、樹上、ナメた口調。寝そべるようにして枝にもたれかかり、背には配ったライフルを更に越えて芝居めいた大きさの銃が一丁。褐色の男はソレを向こう、いや複素数平面でも見つめるような狂気を孕んだ目でウットリと見つめている。
果たしてコイツは自分が役目の重大さを理解しているのだろうか。
「うらやましい限りだな、」
わざわざ雨除けまで敷いて吹かすタバコに舌打ちを添えながら、私はガリガリと地面をひっかいていた。
「オメーが緊張しすぎなのサ、ドラゴンとやった時も三つくらいだったじゃんかよ、」
煙の向こう、眠たげな目でのぞき込んでくる彼の目には、私の足下、既に七つほど完成していた魔方陣が映っている。
「それほど強大なのだ……特に雷は」
「ま、痛ぇじゃすまねーからな、」
ボリボリと髪を掻きながら、男はタバコをくわえた口で呟いた。
「それなら怖くない。痛いと言ってくれるなら」
"SOS が届かない"
仲間の、部隊の救命、回復を担う私にとって、ソレは最も忌避すべき自称だ。
喩え神の手と讃えられようが、顕界した天使と愛されようが、助けて! 患者がそう言ってくれなければ助けられないのである。
……狩場では、より一層ソレが強くなる。
今書いている魔方陣も、私が今まで覚えてきていた魔法も、大半が助けることを目的としていない。助けを聴く為の物だった。
「さて――
最期の魔方陣を書き終わって、杖を置いた私は思い出したかのように衣服を脱ぎ出す。
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