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住んでいた教会からパクってきた修道服。コスプレと見まがうほど世代遅れのソレは、そこら中に修繕した跡が目立ちだしていた。
喉仏を隠すタートルネック、足下までぴっちりとした黒の股引と、胸元に巻き付けたサラシ。年々誤魔化すのが難しくなってくる成長期の身体。低音が出しやすく、身長に関してはなんの問題も無いことだけが救いだが。
溜息もそこそこに、ヒトが入れる程に膨らんだ、樹上が男のリュックに手を伸ばす。
「変なモン触るなヨ! 吹っ飛ぶからな!」
「わ、解ってる!」
頭上から響いた珍しい大声に、慌てて視線も引っ張られる。
彼はきっと足音だけで自分の荷物との距離を判断したのだろう。わざとらしく寝返りを打っては、インナーのみでラインが解る私のことを、決して目に入れないようにしていた。
……今更 良いというのに。ノイマンを見習え。隣で着替えるぞ、アイツ私のことを親戚から引き取った娘くらいにしか思ってないからな。まぁ似たようなものだが……
なぜコイツはこういうときだけ紳士なのだろうか。いつもの変態っぷりはどうした。
ちぐはぐな思春期に失笑しつつ、ガラス類のビンを割らないように奥へ押し込みながら、目当ての物を引っ張り出す。
丁寧に畳まれ、わざわざ布袋にまでしまっていたソレは、森の中ですら違和感を感じるほど彩度の高い真緑のスカプラリオだった。
でかでかと白いダイヤが書かれた、膝下まで伸びるソレを、頭から被り、横はヒモで締めていく。着方は実にシンプル。種属ごとのオーダーメイドなんて創りたくないらしい。
「なぁ、どうせ俺らしかいねーのに、着なきゃダメかよソレ」
ヒモを縛る音に顔を戻した男の、下げた眉毛コチラを見据える。
照れに依るものじゃない。そんなコト解っている。わかりきっている。
「仕方なかろう。次バレれば免停だぞ」
「どうバレるんだ?」
「 "陣" を書くのだ。魔力の残滓が嗅ぎつけられる。てかした」
「……まったくドギツイ奴らだゼ、足下見やがって」
ドギツイ奴ら。私も全くもって同意だ。
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