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ヒトをいらつかせる為に創られた声と言われても納得する声で、地面からツバが吐き付けられる。
和が親愛なる皮肉屋オリバーよ。まぁ当たり前と言っては当たり前だが、この男に対する全ての心配など徒労にしかならないらしい。
「心配いらんようだな、」
「おーよ。しばらくアザラシのマネしかできねーけどな」
そう言った男は、一向に地面から起き上がろうとしない。下半身を横たえたまま、無理な姿勢で標準を向け続けている。
「ふむ。タイラント種の毒をソレですますのか……」
「あぁ?、巻き貝共?、通りで。懐かしい味だぜ」
「そうかい?ソレは良かったじゃないか。走馬灯じゃないといいね」
「ちげーよ。アレはもっと速いからな」
「アァそうかい訊いてないよ。まぁどのみち――さてどうする?、今なら解毒剤も合わせて返すが。」
やせ我慢をほくそ笑み、さほど興味のなさそうな顔を浮かべる。女は、もう一度僕の後ろを見た。
軽く目配せした先にあった怯えた表情に、僕は心の底から安堵した。
そうだ。そうだ。彼女はもう只の年場も行かぬ少女だ。残念だったなクソアマ。オマエがあると思っているモノは既に無い。跡形もない。
不敵な笑みを浮かべて右手を横に突き出す。此処は通さない。誰が見ても解る万国共通の姿勢を示す。
「――持ってるんだよな。解毒剤」
「……ああ、モチロンだとも」
悟られてる。まぁ、今更知ったこっちゃないがね。
「この絶望を払う叫びとなれ 《Endstation Tigergebrüll》!!」
「ハハハ、――進軍」
飛びかかった男の絶叫に笑顔で応えた後、氷点下になった目と共に女は指を鳴らした。 途端、地面が割れると同時に、そこから無数の兵士が飛び出し、男に向かって突進しだした。
「やかましい!! どけ!」
間違いなく二桁は行くであろう土骸の大軍を、僕は虎の紋様が走った両腕でそのままつかみ、まとめ、投げ飛ばした。
周囲、塹壕の壁、ボロボロになった戦場のあちこちに、灰ネズミ共の残骸がまき散らされていく。
「う”、」
背後からの声。命持たざるモノの声。迷わず踵で蹴り飛ばすと、あっけなく首が根元から吹っ飛んだ。確かな脚応えがあった。
「おやおやぁ、見ないのかい?」
骸が歪にまとまって模った玉座。女がうれしそうにコチラを笑う。
なるほどどううして。振り返ると確かに其処に残っていた胴体は、我々と同じ恰好をしていた。
声を出さない。と言うか出すところのない胴体は地面に落ちた後、そのまま僕の脚にしがみついてくる。メリメリと音がして、ロクに栄養をもらえていない脚をへし折るのに苦心しているようだ。
「バキャ、」
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