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使い古した木箱にそうするように、迷うことなく背中から踏み潰した。肋骨がひっくり返って、腐っていた身体のあちこちから血と小骨が吹き出していった。
「わぁ!、たくさん出たねぇ、」
後ろでケタケタと笑う女の声が背中に当たって、そのまま地面に落ちていく。
「……どうでもいい」
「アラ、そうかい?」
そうだ。どうでもいいのさ。命が惜しいヤツはこんなとこ来ないしな。
ソレに今からオマエにおこる事に比べれば、コレくらいどうってことないだろう。
「――無慈悲に。ズタズタに。《Der Marsch der Blechschwalben》」
暴風は無数の三日月となって飛び荒ぶる。土塊の群れを、サイコロの様に切り伏せていく。
土塊の勢いは増していく。あれだけ眩しかったはずの視界が、少しずつぼやけていく。
もう考えるな。全てを熱に、風に委ねろ。吹け。吹き続けろ。風はオマエを包んでくれる。オマエを襲う全ての敵を、一人残らず蹴散らしてくれる。
祈りとなった思考のまま、暴れ続ける事数分。遂に土塊は一つとして残らずつぶてとなってまき散らされ、後には只、ただ一人の兵士と、今からその兵士に首の骨を根元から引き抜かれて無残に死ぬ全身に切り傷を作った女の、青ざめた顔だけが遺った。
「人間かい? ――ホントに」
「あぁ、人間だとも――オマエと違って」
そう言って僕は歩き出した。一歩、また一歩と、確実に最後の命をめがけての行軍を始めた。
観衆の声など、誇り高き凱歌も、きらびやかな門も此処にはない。そんなモノは要らない。
ただ殺す私と、殺される敵がいればそれでいい。
「こまるんだよねぇ、コレだから……戦いたいわけじゃないというのに……」
「あぁ、今から起きるのは闘いじゃない……せめて良い声で鳴けよ。虫ケラ」
その一歩の。瞬間だった。
『ドンッ、ドンッ、』
友のモノでも、私のモノでもない。しらない音が二発。私に向かって強く鳴いた。
「え、……は?、ぁ?――」
状況を飲み込めない。痛みも、苦しみもない。ただ混乱だけが脳を支配する。
前を向いた先にあった女の顔もまた、混乱を隠せないでいた。
手には何も握られていない。ただコチラと自身の腹を見かえして、何度も瞬きを繰り返している。
コイツではない。
それ以外を理解できず見ていると、ジワジワとやがて、女の白衣に紅いシミが出来ていった。
「あう?……」
女は突然、口を押さえた。そしてやがてその手を押しのけて、大量の血を吹き出した。
「――ッおい!?」
反射で叫ぶと同時に、僕自身もパタリとヒザを突いてしまう。エアーチューブが抜けたポンプのようにへたり込む。もう明らかに身体は警報を叫んでいた。
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