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ようやく開いた瞼の中、彼の瞳は私を、いや、私の奥を見ている。
「終わってやがるぜ、こんな世の中」
「え、あ。うん、」
「……生きていてくれたことがうれしかった。国は千切れ、友は掴まり、故郷は灰、親は花畑、上官は失脚……」
「……ねごと?」
「いえ、意識はもどってるような……」
訝しむ二人の少女を置き去りにして、男は一人、取り憑かれたように口を動かす。
「調べたんだ。あの後、縋る気持ちもあったさ。この生ぬるい地獄を、何故か自分だけが英雄として担がれていく虫唾をどうにかしたくて……そしたらどんどん出てきたよ! 少女を使った人造人間、ヒトを龍に変える道具、兵器としての戦果データ……キリが無かった。正気はもっと無かった。倫理は跡形もなかった」
「……彼はなんの話を?」
「さぁ?、最後に見た映画とかじゃない?」
ムカつく。止めてよ。いい加減目を覚ましてよ、
「けどおかしいだろ!!」
「う、うわっ、ちょ、イキナリ叫ばないでよもう……」
「――ッ!、なんで、なんでなんでなんで!! キミすら、キミですらホームレスのバイヤーなんかにっ……! もう絶望だね、国のことなんか知るかよ!」
意図的に逸らしていたというのに。
彼は突如絶叫したかと想うと、涙をボロボロと流しながら、突然私の方を指差した。そしてもう一度泣いた。
「え、……ばい……」
「ちがっ、ちがう!ちがう! チョット! 訂正してよ!」
突然ヒトの過去をほじくり出すバカの頬をぱんと一回、両側からひっぱたく。
どこか虚ろに、接眼レンズが彼岸レンズになっていた男の目に、ようやく虚像ではない像が浮かび上がった。
「……まち、ガイ?」
「そうだよ! 私はアンヌ! そのブツブツ言ってた龍だかアニ? だかじゃないから!」
「いや、違わないハズだ……他人のそら似で通るるレベルじゃ――
「まだいうか! 膝枕のぶんざい、……で……?、……ッ、」
「……どうしたんだ、アンヌ?」
「別に――、あとそう、アンヌ。やっと正解したね。ギリギリだよ」
「ギリギリ……?」
「起きてよ……バカたれ」
強引に背を起こす。絡んでいたツタを引きちぎり、森の奥を指差す。
間違いない。大地が震えている。
「来ましたか……」
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