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息が詰まる。今死ぬならそれでもいいよと、出来もしないくせに息巻く。
「……とんだゼイタクだよね、ワガママだよね。しがみつくどころか補助具付きで巻いてもらった蜘蛛の糸が、オーダーメードじゃないからって。そんな事にさ……」
「なんの話をしてるんだ、キミは」
「解ってたんだよ! 気付いてたんだよ! 知ってたんだよ!」
湧き上がってきた激情を、両瞼からボロボロとこぼしながら怒鳴り散らした。もう救いようがなく今の私は惨めで醜くて、情けない。戸惑いながらも宥めようと近づいてきた彼に、思い切り爪を立てた。
「……こんなクズのさ、テロリスト予備軍のホームレスの外人異種族にさ?、イキナリ地位も名誉も殴り棄てて逃げだそうだなんて……そうだよな、常識的にありえねーじゃんね、」
理解しなくて良い。する価値なんて一ミリもない女のしょうもない戯れ言の真意をようやくくみ取った男の眉が下がる。腕に食い込んだ構造の違う爪からしたたる血をそのままに、彼は私を抱きしめてくる。
「……すまなk――がッ、」
「謝らんで! お願い! それだけは止めて!!」
慌てて爪に力を入れる。小さな悲鳴が漏れて、これ以上漏れないように強く抱きしめる。
血と腕と胴を伝って。全てを押しのけて命が伝わってくる。メトロノームのようにとくとくと、その音は私をひどく落ち着かせてくれた。
「あ、あのッ、……えと」
サーシャの声。膝枕から謎の痴話ゲンカを始めた二匹の凶行に戸惑いながら、龍の足音が鳴る方を指差している。そうだ、時間が無い。
もう一度強く抱きしめる。深呼吸を一回。原っぱと雨の味がする彼の胸元で深く、自分の肺を入れ替える。
そうだ。意を決しろ。覚悟を決めろ。
開こう。もう、口を。コレで最後だと
「……あのね、笑わないでね」
「ああ、モチロン」
「……昔さ。おねーちゃんがさ?、職場で口説かれたらしいのよ」
「あ!?、あ、あぁ……」
「私らこんなだからさ?、中々ないわけじゃん。でも断っちゃたんだって」
「それは――もったいないな……」
「でしょ! でね、理由 訊いたら何て言ったと想う?」
「――どっちか選べなかった、……とか?」
「なんだソレ。ゼンゼン違うよ、」
「そうか……無念だな。オリバー」
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