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龍の口が私たちに向けて開かれたのは、その瞬間だった。
「あっっっぶ!!」
コチラも龍だ。さっきとは違う。空を蹴り飛ばし翼を投げ、そのまま型に担いだ大男を舵代わりに振り回し、とっさに軌道をズラした。
"ちゅん" と一回。自分の真横を掛ける閃光の軌道に、心拍数は限界を超えて加速していった。
「「ぐえ、ぇう」」
汚い声と共にそのまま。着陸姿勢も取れずに私たちは地面へと突き刺さる。
だってしょうがないじゃんか。まさか野生動物が落下予測して撃ってくるとは想わないじゃんか。
落ちた先の地面は、幸い大分視界も遮られている……のか?、多分目が見えてないっていってたケド。これってもしや相手側だけ見えてるヤツなのでは?
「――それなら大丈夫だ。ホラ」
私の懸念に気付いたのか、砂埃の中、ガラン君が自分の手にはめていたひしゃげたグローブをよこしてくる。
「なにこの……黒い、砂、鉄?」
「テアが纏ってたヤツさ、コレだけ待ってればヤツの目にはもう映らないだろう」
「そっか……てか大丈夫?、大分ハデにそんな砂鉄さんに向けて激突したけど」
「あぁ、ノックはされたけどね?、ちゃんとお帰り願ったよ」
「バカ、向こうに案内しなよ」
「なぁそうだ。クソッ、ミスったな」
わざとらしく舌打ちを一回。競うようにコチラも大きく一回。思わず嗤いが漏れる。
「……何が足りない?」
「力はいい。どうせ適わん。――数だな、意識をもうちょっとズラしたい」
「なるへそ――……いける~!?」
後方、蘇生を続けて居るであろうサーシャに向けて叫ぶ。
「む、むりですゴメンなさい! まだとても――
「立ってるだけなら、どうだ?」
息も絶え絶え、疲労困憊、性別を隠すことも忘れて今にも倒れそうな少女の悲痛なメッセージは遮られた。なぜか、更に息も絶え絶え、今にも倒れ、いや、斃れそうな老爺の声だった。
「「町長!」」
意外な第一号に、二人の声がそろう。
「寝るの早ェけどな、起きるのも早ェんだ。年寄りってのはヨ……ッお?」
カッコを付けながらもけんけん脚で進む老兵の首を、問答無用でツタが締め上げる。サーシャの怒鳴り声が響く。
「無茶です! 死にます! 寝ててください!」
「いいんだよ、自分の限界なら一番よく知ってる」
「知ってたらなんで――
譲らないサーシャの唇に、ヨボヨボでボロボロの人差し指が当たって。
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