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「しーっ、」と一言。ガラにもなくジジィは、成れないウインクをしていた。
「ナイショで頼むよ――最近、ようやく判子の位置が解らなくなってきたんだ」
「ボケてるだけじゃないですかぁ!」
ツッコミは空を切る。
既に銃後の存在となった彼女に軽く手を振りつつ、老人は、私たちの近くまで、びっこを引いて歩いてきた。
「……なんだそりゃ、コスプレってヤツか?」
「コレは――
「そうそう! 二人限定。いつもより雑に強いよ」
「そうか、なら安心だな」
「おい、」
なんやかんやで仕立てた説明に、背中には辛口の評価が下される。
状況が状況なんだ。別に良いだろう。
「――まぁアレだ。とりあえず俺に龍とどうこうする力はない。元から無い。ミリもない!」
「めっちゃ強調するじゃん」
「シャーネーだろ、ジジィだぞもう。右手の先から感覚ネーし。お、坊主。オソロイだな」
「嫌なオソロイですね、」
「まぁいいじゃねぇか。で、ここからだが――ガラン。オマエ背中取れるか?」
「え、ぇ。まぁ」
「アイツより早く走れるか」
「た、多分――」
「断言しろ。軍人は YES か DIE だ」
「イエス!」
ドコか懐かしさすらある敬礼をするガラン君。私とは違う懐かしさに、少しだけ町長の顔がほころぶ。
「ヨシ、最初にバカ共のために空に撃った陽動弾が残ってる。ソイツを使って俺の元に注ぐから、後はオマエ、後ろから膝カックンしろ。アンヌはさっきと同じ方法でいい」
額から血を流しているとは思えない速度で、つらつらと作戦が出てくる。
ハンターでも無いのにサーシャをかばっていたり、このオッサンはやっぱり私たちよりも遙かに長い時間生きてるのだなと、今更ながら尊敬する。勘が鋭いというより、何より選択をするのが早い。てんで迷わないんだ。"えっと" がない。
「……砂埃が舞ってるウチに背後を取れ、ガラン。オマエが奥の木を叩くのが開始の合図だ」
「了解!」
糊を張ったようにシャキッとした返事を残して。彼は既にソコが抜けてしまった靴を脱いで裸足になると、ウサギのような足取りで、森へと消えていった。
やがて、"どぉん" と一回、鈍く重く。"メキメキミシミシ" と数回、強く広く。力の調節が出来ないバケモノに目を付けられた木の泣き声が、私たちの耳に届けれられた。
「いくぞ!」
町長の声と共に、左手に持たれた銃からピンクの閃光が飛んでいく。
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