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龍は賢かった。"銃弾" と言うモノを放たれるものだと理解していた。閃光が飛ぶ空には目もくれず、発信源の老爺に向かっていった。
ただ唯一誤算だったと言えば、その閃光と同じく、空を目指す軌道はもう一つあったと言うことだ。
三本脚の発射台から、同時のタイミングで三度目の空へ飛んでいた、オマエの命を狩りとる鎌が投げられていたと言うことだ。
老爺は一切うろたえない。
そのかぎ爪が迫り、地面が震えようとも、ただほくそ笑んでそのままよたりと座り込む。
銃を再びつがえると躊躇も、期待もなく、パン、パン、と軽い音を鳴らした。
弾には魔力が籠もっておらず、龍は蚊柱でもくぐるかのように首を振って、そのまま突撃していった。
動いてはいけない。
例え龍が差し迫り、兵の目の前まで来ようとも。
動いてはいけない。
例え龍のツメが銃を撥ね除け、抵抗なく男の身体が中に投げ飛ばされようとも。
――まだ、まだ。まだ?、まだ!?、
焦燥が冷や汗となって首を伝えど、まるで冷やしてはくれない。そういう作戦だというのは理解しているのに、彼が龍に追いつく数秒を、永遠に感じてしまう。
早く来なよガラン君! 森に充てられてクマにもどっちゃったの!?
木に紛れて待つしか無い。歯がゆさに鼓動の音が増していく。
龍が片足を上げる。いよいよ防御姿勢すらおぼつかなくなってきた老人を踏み潰そうとでも言うのか。
目を瞑った。
男のうなり声が弾丸となって飛び込んできたのは、まさにその瞬間だった。
「うぉぉ"ぉ"ぉ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!!」
絶叫とともに迸った破砕が、地面を落雷が掛けるようで。
全速力で軸足に飛びかかった男の特攻から、鼓膜を劈く衝撃波がやってくる。
「キォオォッッ!」
言葉こそ分からねども誰が見ても分かる動揺と共に、死角から撃たれた楔に龍はもだえ、そして倒れていく。
先ほどとは違い、明らかにガラ空きな背が見える。
衝撃を浴びて血が噴き出し、黄金の鱗を赤く染めている。
目に突き刺さる命の強さに、思わず息を呑む。
――それでもっ
「ぁぁあぁああああ" あ" あ" ア"!」
どす黒く口の中で沸騰した葛藤や恐怖など、一つ残らず嘔吐して。
飛び込む。飛び込む。曇天を蹴破れ、その先にある朝日を闢くんだ。
絶叫、翼を折りたたむ。
重力を背に受けて、木を引き抜く勢いで踏み抜く。直下、僅か20m でいい。ハヤブサを纏うため。
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