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はじけた座標と共に、破けた鼓膜がかすかに震える。伸びきった脚が千切れるほどの衝撃を孕む。羽ばたきを止め、ただ飛び墜ちる。
空雷となれ。隕石となれ。体重30キロにも満たない身体を400越えの握力で縛り上げ、龍の背へ――ッ!
大地が迫る。
空気が割れる。
視界が千切れる。
――衝突の瞬間、血しぶきが舞った。
ゴリゴリと削れる振動があちこちを駆け巡って。海に墜ちたときのように耳がくぐもって。
意識より、チカチカと終焉の合図。翡翠に墨を浸した身体は脚から粉々に砕け散り、"パンッ" と軽い音と共に、龍ごとひしゃげた。
ふわり、身体から重力が離れていく。
意味が分からず下を覗くと、龍は血が止まらぬ口を開け、私が墜ちてくるのを待っていた。
――どうやら、勝負あったらしい。
もう絶望すらない。イヤにさえてきた脳を頼り、神経が千切れたであろう脚の方、何かが引っかかっていることに気付く。
砂埃が走る視界にソレが入った途端、思わず吹き出してしまった。
ソレは骨だった。導線のように走る神経や血管を束ねては、明らかに主電源を担う形をしていた。
飛ぶことに全振りした生き物にしては重すぎる。つまりそういうことである。
――どうやら、黒星でもなかったらしい。
「なら、いっか……」
目が合った気がした。
同じ感情を今、龍も、私も抱いている気がした。
かわいそう。なんて抱かない。
目線こそ上だが、そんな感情はモチロンない。
ではなぜか、なぜ私は今、悟った様に翼を広げ、割れた砂時計に向かって飛び込もうとしているのか。
不思議な感情があった。
自分でも説明が付かない。不気味で少しぬるい。
寂しい? に似ている。
贔屓のチームが圧勝しているとき、相手の顔が目に入ってしまったときの、あの感情に似ている。
それにどうせ、何が出来るというわけでもないのだ。
全てを籠めての急降下を経て。エンジンはとまり、ガソリンは抜けて。右翼も左翼も尾翼もボロボロで。
……そうだ。それなら別に良いじゃないか。
何も悩む必要なんて無かったんだ!
気付いた途端、目の前に迫る口が、ヒドく愛おしく見えた。
心音が安らぎにテンポを変えて、満足感が染み出てくる。
「――いいよ、一人くらいおみやげだ」
どうせ最後だ。お腹いっぱい食べるがいいさ。
笑顔で、ゆっくりと墜ちていった。
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「ダメッッえ!!!」
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