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⑲あらしのあとに
「やぁ、久しぶり」
カラカラのノドを頼りに目を開ける。白みの中、掻き分けるようにして。
頭の奥には堅い太もも、ずいぶんとゴツい。岩みたい。
「…………おわった?」
「……あぁ、終わった」
「よかった。"勝った" て言わないんだ」
「ハハ……少し、解るよソレ」
「そう。……私は死んでた?」
「ああモチロン。ぐっすりだったさ」
「フフ、眠りが深いんだよ、誰かさんと違ってね、」
「ゴメンって……」
ボヤけた視界の先、申し訳なさそうに手を合わせようとして、私の身体を支えていたことを思い出して、やっぱり止めた男の右手。
包帯でグルグル巻きにされたソレを挟んで二人、しばらくの静寂。
背景は、美しい緑と紺の世界。こぼした星空のペンキの匂いが鼻をくすぐる。一等星は照明テストを終え、太陽のステージはとうに終わりを告げていた。
やがて、どこからか蝶がひらり。美しくぼんやりと光るオレンジ色の翅で。
最初の方こそ想ったんだ。お、なんかロマンチックってヤツじゃん。ってさ、
そしたらソイツ、私の鼻に留まったかと想うと、そのまま鼻の穴に入ってくるもんだから。「うぇっっぷ!ッ」と汚いくしゃみを誘って、そのままピュウと逃げていってしまった。
バカバカしくて、情けなくて、鼻水を男の袖で勝手に拭いながら。私たちはケタケタと笑いあった。
「すごいね、バカって運命レベルだ」
「そうだな、傷の治りも早いしな」
「否定してくんない?、」
「すまない。そろそろ膝がしびれてきたんだ」
「しょうがない奴め、ホラ――手ぇ貸して」
大きな手に、ボロボロになった翼を充てる。
ずいぶんと軽くなっちゃった気がする身体を、彼はひょいと、椅子でも片付けるように持ち上げてくれた。
少し、まだ、めまいがしたのでよたれ掛かる。大きな身体にもっと大きな翼を畳んで、ぎゅうと包んでもらう。
「下。気を付けて」
「え、わっ!」
しゃがれたノドから大きな声がでる。
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