追放

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「契約破棄ってムートさんどうなるっすか?」 「どうにもならんよ、解雇された挙句に置いてかれたから」 「置いてかれたって……」  私は右手のひとさし指と中指に魔力を集中させながら小指をアンテナ代わりにして会話をしていたが途中自分の不甲斐なさから歩くのを辞めて近くにあった小岩に腰を下ろした。 「そういうことだからさ、当分勇者様への新商品紹介は私からはできない。申し訳ない」  リストにある仕入れ先に謝罪の電話をしているそんなときに限って馴染みの魔道具メーカーから連絡が入るものだ。新商品の提案に勇者へ仲介してほしいとの要望は今の私に叶えて上げることできない。 「それは全然大丈夫っす! それより今どこなんですか?」 「正直分からない、でも来た道を戻っているからあと数日もすればカイフの町に帰れるはずだ」 「数日って死にますよムートさん」  深刻な声色で心配してくれる彼女は魔道具結社グットマンで働くベイリー。私と一緒に勇者や黒魔導士に新商品の提案や実際に現場で魔物の討伐をサポートした戦友であり、ビジネスパートナーである。 「急な話で申し訳ないがもし帝都にたどり着けたら私を経験者枠で採用試験を受けさせてくれないか?」 「それは全然問題ないっすよ、僕から人事に話しをつけておきます」 「ありがとう。ちなみにどんな商品が出来たんだ?」 「もうそんなことはどうでもいいっすよ! とにかくはやく帝都へ向かってください、そこで一度僕とおち合いましょう」  通話が途切れた私は大きくため息をついて再び歩き始めた。  帝都以外の街には常に魔物の襲撃に晒されている。そのため各村や街には必ずギルドがあり、小遣い稼ぎの冒険者や経験値稼ぎの勇者様、ハンターらがクエストクリアの名目で護衛をしていた。当然フリーランスのディーラーも待機しているがその日限りの契約では到底暮らしてはいけない。それに魔王軍を討伐する大儀がなければ魔導士ディーラーなどパートナーにおいて重要視されていないのだ。  しかしそう思われていたのはたしかここ二、三年ぐらいまでであった。ここ数年、出没する魔物が明らかに強くなってきている。もっと詳しく言えば賢くなっているのだ。最前線で戦う勇者を近くでみてきた私には、その事実を肌で感じることができた。  最弱のモンスターのスライムですら徒党を組んで集団で攻撃するバリエーションが増えたし、ゴブリンですらパーティーにおいて誰を倒せば弱体化できるのかを考えながら攻撃をしてくる感覚がある。  
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