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 お母さんがいなくなったリビングの隅に洗濯かごがぽつりんと置かれている。姉ちゃんがサッと干して学校に行けるよう、お母さんがカーテンレールに洗濯物の枚数分ハンガーをかけている。  あたしは火曜と金曜にゴミを出す。すでにゴミは集められていて、ただ玄関前にカラス除けのネットをかけて出すだけ。姉ちゃんと六つ歳が離れたあたしは甘やかされている。 「虹子、あと三日あんねやろ? 今んうち勉強しとけって、マジで」  姉ちゃんが歯磨きしながら器用にあたしを叱咤してくる。   「十月の六日ってのがきついんよ」 「十月の六日がなんなん」 「スプラ5の発売日の次ん日やもん。やるしかないやん。それはもうスプラやってまうやん。やから、あたし勉強は期末からやるんよ」  あたしは、にこりと微笑みながら画面から消えゆくお天気キャスターさんに応援のこぶしを送った。 「おめえ、おめえはよぉ。いつか後悔すっから。姉ちゃんの言うこと聞いとけ。まじで」 「だいじょうぶ。あたし、やったらできる子やし」  はあ、とかため息をつきながら、姉ちゃんはリズムよく洗濯物を干していく。窓の向こうに姉ちゃんの派手な色のブラがゆれていた。 「そんなとこ見たことねえがな」 「あるもん。年少んとき、運動会で一位なっておとん言うとったやん。虹子はやったらできる子やて」
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