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「センセ?」
どこか甘い、不遜な低い声に呼びかけられた鷹哉は、はっと意識を目の前へと戻す。
大胆にも目の前のスラックスは、アンダーウェアであるウエストゴムごとぎりぎりまで下げられていた。
「……っ」
引き締まった臍の下あたりから、アンダーウェアが下げられたところまで雄々しい下生えが堂々と覗いている。
同性同士だからだろうか。
鷹哉に対して遠慮がない。
かえって鷹哉のほうが激しく動揺してしまう。
今まで色々な男と寝てきたはずなのに、どうしてこんなにもドキドキするのだろう。
おそらく予期せぬ場所で、予期せぬタイミングで理想の上半身に出逢ったせいだ。
「センセ、ちゃんと測れそう?」
気遣わしそうに学生が、鷹哉を「センセ」と呼びながら俯いた顔を覗き込んでくる。
「あ、いや、大丈夫。大丈夫だから」
突然目の前に現れたのは、美しい肉体美に負けず劣らずの美貌の顔で、またしても息を呑む。
甘いというよりは、クール系。
目鼻立ちははっきりとしていて、中性的な顔立ちであるアラサーの鷹哉より余程大人っぽくて男らしい。
眉は綺麗に整えられていたが、少し若者ふうっぽく釣り上がった眉だ。
普段、ハッテン場ではそれこそ眉のアーチひとつとっても、見場にうるさい鷹哉だったが、今はまったく気にならない。
ならないどころか、その眉のカタチこそが彼の美貌にぴったりだと自認する。
脳裏のどこかで、相手は学生だぞと警鐘が鳴るのを感じながら。
「でもセンセ、顔赤いよ?」
美貌の顔がぐんとより鷹哉へ迫り、鼻と鼻がぶつかりそうになる。
「……気、のせいだ」
指摘されて、鷹哉は距離を取るように顎を引いた。
けれど、頬が熱い自覚はある。
肯定するのもなんだか気恥ずかしい鷹哉は、理想体型のウエストへ力任せに、ぎゅっとメジャーを巻きつけた。
硬く引き締まった腹筋がひどく憎らしい。
高校生のクセに。
そう思っていると、こつんと額が軽くぶつけられた。
「っ痛」
本当は痛みなんてまったくなくて、条件反射で出た言葉だった。
「藤峰センセ、大丈夫か」
屈めていた背を伸ばし、鷹哉の額へ大きな手が当てられる。
その触れられた無骨な温かい手に、鷹哉の胸はさらに忙しくなっていく。それどころか、全身が完熟したトマトのように真っ赤になっていくのが分かる。
今日の鷹哉はやっぱりおかしい。
きっと昨夜、長く関係のあったセフレに捨てられたせいだ。
でなければ、守備範囲外の年下に動揺するなんておかしい。
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