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先生に促されてスタート地点へぞろぞろと並び出す。
木村が前へ、前へと、小さい体を人の列にねじ込んでいく。
「ゲン。こっち、こっち」
僕は木村の声変りをしていない高い声に引っ張られるようにして彼の背中を追う。
「作戦通り。最前列とれたな」
振り向いた木村が白い歯をのぞかせる。その笑顔は心なしか引きつっているように見える。
「必死すぎてマジで笑える」
何人もの頭を飛び越えて高井の声がまっすぐに耳に届く。
後ろに目をやると高井の顔が見えた。周りよりも頭一つ飛び抜けて背が高いので、大勢の中でもよく目立つ。
「お前ら二人、負けた時の約束忘れんなよ」
高井の目が細く歪む。口の端をちょっと持ち上げて冗談めかして笑う。それに呼応するように高井の取り巻き達が声を上げて笑う。耳ざわりな笑い声がさざ波のように広がる。
僕は耳を塞ぐかわりに目を固く瞑る。
胃がキリキリと痛む。背中にじっとりと冷たい汗が流れる。
木村、お前があんなこと言わなければ。
「ゲン!」
瞼を上げると、木村が僕の顔を見上げていた。
「心配すんな。俺にはあの『作戦』がある」
木村の両の手が僕の肩をガッチリと掴む。
「木村・・・」
肩の上に乗る手は小刻みに震えていた。瞳は少し濡れているように見える。
「お前の作戦は、『作戦』とは呼べないよ」
唇の先まで出かかった言葉をぐっと飲みこんで上を見る。秋らしく澄んだ空を、鳶がのんきそうに舞っているのが見えた。
なぜこんなことになってしまったのだろうか。
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