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私は観察者。彼らの観察者。彼らは一本の大きな道から木の枝のように無数の道を作り、私はその様子を眺める。
道にはいろいろなものがある。容易く後戻り出来るもの、たった1人で作り上げたもの、そしてー
「…今日も来たのか。」
最近私がよく観察しに来る道。ここは辺り一面真っ暗で容易く後戻りはできない。他の道と違い視野が狭い分、ゴールへのルートを定めることすら簡単ではない。大抵そういう場所は発見さえされない。ごく稀にされたとしても誰も近づこうとしない。それはそうだ、誰しも足場の見えない、いつ踏み外すかもわからない場所に足を踏み入れたくはないはずだ。しかしどういうわけか、この道はよく人が訪れる。
今日来た者は鞄いっぱいに知識を詰め込んでいた。
「ほぉ…」
知識は弱々しく光を放っていた。カバンを背負った男はそれを小さく千切っては自身の周りに投げ、知識は男の足元を小さく照らした。薄暗く照らされた足元には無数の残骸が散らばっていた。スコップや鎌、鍬のようなもの、様々なものがそこにはあった。
「…」
観察者は道の上空から道へと降り立ち、それらを拾い上げた。それらの道具にはそれぞれ夢が描かれていた。『有名になりたい』、『救世主になりたい』、『お金持ちになりたい』、『女にもてたい!』。
「…夢だけでできたアイテム…脆いものだ、人の描く夢というものは…。」
そう、夢を思い描くだけでは道を開くことはできない。だからこそ今回は期待できるかもしれない。男はそのまま知識をそこらに撒きながら、奥へと足を進めていった。
「……まあ、期待していよう。」
観察者は他の道を観察しにそこから離れた。
あれから何日たったのだろうか。ずいぶん久しく感じる。再び例の道に訪れた。
「…やはりか。」
鞄の男は観察者と出会った場所からすぐのところで石のようになっていた。鞄の中いっぱいにあった知識は空っぽになっていた。そこら中に散らばった知識もすでに光が絶えていた。
「この可能性の道はもう消してしまおう。」
観察者は道を消そうと動いた瞬間、後方から強い光を浴びた。
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