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「じゃあ答え合わせしましょう」
冷房が効いた涼しい部屋なのに冷や汗が止まらない。
興味のない問題は基本的に後回しにするか、てきとーに文字を書き込んだため答えなんてでたらめだ。
「ちょっとこれはひどすぎます。しっかり文章を読みましたか? 全然理解してないじゃないですか」
るり子は物語文の例題を見てた。それから僕の答えを見て呆れていた。それはアニメ映画にもなった人気女性作家のファンタジー小説の一部だった。
平凡な男子小学生の主人公が崩壊した家族を取り戻すため、運命を変えられるという不思議な扉を開け異世界に転移するという話で去年の金曜ロードショーではとても面白かった。
だがしかしだ。
実際にあんな勇気がある小学生は絶対にいない。大人よりも責任感があり、勇敢でなにより強い目的意識がある。
絶対いないといって断定してはるり子に怒られそうだから少なくとも僕ではないとだけ言っておこう。
るり子は自分の回答と見比べながらまじまじと僕の解答用紙を確認する。
「信じられません」
埋めたのは漢字と記号問題だけ。あとはきれいな白紙のままである。
「わからなくて」
「わからなくてじゃないくて、答えようという意思をみせなくちゃだめです。これじゃ採点する気にもなりませんよ」
るり子の声はよりいっそう厳しくなる。赤ペンでバツもつけてくれない。
「長文読解は文章の中に答えのヒントがあるじゃないですか」
「だってるり子、考えてもみなよ。このときの主人公の本当の気持ちなんて主人公にしかわからないのに僕が分かったらおこがましくない?」
「また、そんな屁理屈を……だから友達少ないんですよ」
さらに呆れるるり子に僕は「るり子もだろ」とモノ申したくなる。
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