第一章

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 自習室の中が騒がしくなってきた。多くの利用客が顔を上げてなんとなく僕たちを眺めている。  るり子はそんな視線を察して僕の手を引き自習室からでた。  その時の彼女の横顔は意図せずに注目された恥ずかしさで赤くなっていて、スタコラと図書館を出た先に広がる芝生の公園の屋根付きベンチに腰を掛けた。 「あなたがうるさいから」  一言つぶやいてるり子は顔を背けた。こうなるとるり子はちょっとめんどくさい。ただそういう時の対処法は心得ている。まずは自動販売機に行って紙コップのカルピスウォーターを持って戻り、肩を叩いて素直に謝る。 「ごめんね、これ」   まだ顔は赤いし、なかなか受け取ってももらえない。 「休憩しようよ、これ僕のおごりだから」  こっちを向いたるり子はやっぱり腑に落ちない顔をして、だけどジュースは受け取った。黙ってジュースを口に入れて、僕はるり子から目をそらし正面の駐輪場を眺めた。綺麗に並んだたくさんの自転車の多くはママチャリで近隣の高校や中学校のステッカーが貼ってある。みんな受験や課題に一生懸命取り組んでいる人ばかりなのだろうな。それに比べて僕ときたら、きっとるり子はいなければまだ夏休みの宿題に手も付けていないだろう。 「お金あとで渡します」 「別にいいって、それに宿題を見てくれてるからそのお礼だと思って」  るり子は何も答えなかった。僕はるり子の隣に腰をおろして、ジュースを一気に飲み干す。それから雲一つない空を見上げてぼんやり自分の将来を想像する。 「きっと僕は高校卒業したら就職してるり子は東京の大学に行くんだろうな」 「どうしてそう思うんですか?」 「だってさ、いくら問題を読んだって登場人物の気持ちなんてわかんないし、会話とか行動とかに答えが書いてあるって言われても、人の心なんてわかってたまるかとも思ってるんだ」  紙コップに残った氷を地面にこぼして、芝生が青く濡れる。僕は半ば諦めながら言った。 「別に国語の問題だけじゃなくてさ、学校でも同じなんだよね」    
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