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エピローグ〜リノモジュール
リノモジュールは思考する。
リノ・ライノという少年の生き様について思考する。
リノ・ライノが死んだ後、彼の棺の前でリノモジュールは起動した。
クリスはめちゃくちゃ動揺して、お化け!?なんて叫んでいたっけ。
僕は彼に早速嘘をついた。本当は僕は移植されたリノそのものだった。でも、やっぱり体が無いのって、思っていたよりリノ・ライノとは乖離してしまう。もう彼に抱いて貰えないし、彼の色んな表情を見ることもできない。
その点、本当にリノ・ライノは幸せ者だったよ。
今の僕は、リノモジュールは、死人だ。
ある夭逝した天才の記憶について、僕は記録を整理し終えた。
ここには、クリスの脳内には、クリスから見たリノ・ライノの記憶がある。
そしてこのモジュールの中には、クリスとリノ・ライノについての思い出が、全部詰まっている。
クリスがリノの記憶を混同しないようにと余計なものは全部消したのに、それは全部残っている。
よっぽどリノ・ライノは覚えていてほしかったんだね。どうせならもうちょい社会の役に立つ記憶も残しておけば良かったのに、我ながら本当に身勝手な男だよ。
リノ・ライノの記憶はクリスに抱かれた翌日まで。武闘会での記憶はクリス側のものにしかアクセスできない。だからリノ・ライノが、僕が、最期にどう感じて、どういう意味で言葉を紡いだのか…そこは、推測することしかできない。
でも、あの最悪の男は、僕は、間違いなく幸せだった。
幸せに生きて、幸せに死んだ。
最後の心残りも、リノモジュールがこうしてクリスの中に存在し、クリスの旅に付いていくことで、潰すことができる。
僕も、リノモジュールも、幸せの筈だった。
ただ、思っていたより何かが足りないなと感じていた。
それは何だろう。
起動した時にクリスと交わした言葉。
「…くそ、何とか消せないのかこれ!お前の声は聞きたいけど、今は最悪のタイミングだぞ!!幻聴じゃねーのか!!」
『あぁ…、事情大まかに察した。悪いけど、これはリノ、僕自身の遺志でもあるんでね。消せない。お前が僕を忘れるまで、いつでも傍にいる』
「………!!クソ野郎が…押し付けやがって。分かった、こんな破格の報酬、前払いでくれるってんならやってやるよ!ただし俺の口が悪くなったみたいなクレームが来たら一生恨むからな」
『ああ、一生一緒にいよう!』
「っ誰が一生一緒になんかいるか!お前なんかさっさと忘れて、とびきり可愛い彼女作ってやるわ!あの世で泣いて悔しがるんだな!!」
そう、意気込んでいたが。
結局クリスはリノモジュールのことを、リノを殺した罰として受け入れ、二度と独りには戻れないと思っているようだった。
リノモジュールとしては、クリスに存在を忘れられたら消えようと思って最初にそう説明したのだが、今ではそんなもの無理だと思われているらしい。
リノモジュールは考察する。
何となく、何が足りないのかが見えてきた。
クリス自身の幸せが、足りないのだ。
リノ・ライノが死んだことにより、クリスが幸せでなくなってしまった。
リノモジュールが傍に付いていれば大丈夫だと、リノ・ライノは思っていたのに。
案外、クリスも弱い奴だった。
リノ・ライノは大馬鹿者だ。
あいつは結局、自分を分かってくれないと嘆くばかりで、クリスのことを何も分かっていやしなかった。
どれ程自分が大切にされていて、どれ程クリスが打たれ弱いか。
リノ・ライノの中では、クリスは不撓不屈な英雄で、殴られても決して折れず、どんなに傷付いても克服し、闇に交わらず、常にリノを支えてくれる存在だった。
──そんな存在、カミサマだってなれやしないのに。
リノモジュールでは、もう彼を幸せに出来ない。
ただ、セルシアさんや、適当な女では僕が許さない。
まあ焦る必要はないだろう、とリノモジュールは結論づけた。
僕とクリスは今やひとつなのだ。
クリスに近寄る色んなものを僕が排除して、見極めてやろうじゃないか。
僕らを超える、真実の愛ってやつを。
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