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 上野義高三十六才。結婚生活に不満があるわけではない。むしろ満ち足りている。一つ下の妻、美季。小学一年生の娘、さくら。親子三人平穏に暮らしている。  さくらが小学校に入学したのを機に、美季はいったん退職した、元の職場の銀行にパートとして勤務しはじめた。  さくらも大変だろうが、美季も大変だ。    少々育児が楽になったとはいえ、仕事と家事。上野も手伝える家事は手伝う。残念ながら料理はできない。多分手を出さない方が平和だ。せめて食後の片づけ。モップ掛け。さくらが生まれた年にロボット掃除機を買った。だから上野がやるのはクイックルワイパーのみ。大助かりだ。  それからゴミ出し。冷蔵庫に貼ってあるゴミ収集の予定表にならってゴミを出す。これは上野の仕事。キッチンの一角には六つに分かれた分別用ゴミ箱が鎮座している。それほど広くないキッチンの相当のスペースを占拠してはいるが、最初から分別してあるおかげでゴミ出しは楽をしている。ゴミ袋をはずしてくくって集積所に持っていくだけ。今ではゴミ箱がデカすぎると美季に文句をいったのを反省。    弁当はない。仕事柄外に出ることも多い。作ってもらっても状況によっては外食になることもある。せっかく作ってもらった弁当を無駄にするのは忍びない。  それでも美季が働いていたころは、自分のついでだからと作ってもらったこともしばしばだった。が、さくらが生まれてからは遠慮している。ついでならばまだしも、わざわざ自分のためだけに作ってもらうなど、さすがに申し訳ない。  だから昼は、社食か外食。  ただ、二人目がほしいとは思っている。さくらの弟か妹がいたらいいなぁ、と思ってはいる。が、美季はつわりがひどかった。脱水症状を起こして入院するほどだったのだ。  上野もあのときはひどく動揺した。青ざめて吐き気をこらえ、どんどんやつれていく美季を、なすすべなく見守る事しかできなかった。代われるものなら代わってやりたかった。せめて二等分できたらよかったのに、と思った。あれを見てしまったら気軽に二人目、とは言えない。  仕事に復帰した美季は、もう二人目は考えていないのかもしれない。その可能性のほうが高い。上野は半分あきらめている。  休日には親子三人で出かける。買い物だったりレジャーだったり。最近はショッピングモールが多い。子どもの遊び場もあるし、フードコートだとランチ代もお財布にやさしい。それぞれ好きなものを食べられる。  とはいってもさくらは毎回ハッピーセット。しかもポテトしか食べなかったりする。  しょうがないなぁ、と苦笑いしつつも上野が腹の出具合を気にしながら、さくらが一口だけかじったハンバーガーを胃に収める。  美季が自分の服や化粧品などを見ている間、上野とさくらはペットショップで子犬や子猫を見ている。見ていればさくらはおとなしい。  それからアイスクリームを食べて、食料品を買って帰る。  美季の機嫌がいい。さくらも機嫌がいい。いいとこだらけ。ショッピングモール最高。  ちょっとした口喧嘩や行き違いはあるものの、おおむね安穏として暮らしている。
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