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「本屋さんでいうのもなんですけど、かさばらないのが理由かな。いつでもどこでも読めますし」
これには、店長も茜も苦笑いである。
「たしかにねぇ。こればっかりはいい返せないな」
店長はため息ばかりである。すいません、と申し訳なさそうに高田がつぶやいた。
「でも、活字にもいいところはあるんですよ」
茜がいい返した。お? 自分も活字派の上野は思わず茜を見る。先ほどの決意はどこへやら。
「ページをめくる感覚って、スマホじゃわかりませんから」
「そうそう!」
上野はついつい身をのりだしてしまった。なかなか分かってくれる人のいない本について、分かち合えるとうれしくなる。
「紙の匂いとか本の重みとか。あと字の並びとかスマホの画面ではわかりませんよね」
茜に話しかけてしまった。つい。うっかり。
茜がパッと笑った。
ヤバいから。そんなふうに笑うなって。
「持った感触って大事かなって思っちゃいます」
「そう。ぼく文庫本の紙質が好きなんですよ」
「ああ、いいですよねぇ。薄いのになめらかでページをめくるじゃまにならない」
「そうそう!」
そんなもんですかねぇ。と盛り上がる二人に高田はちょっと冷ややかだ。
「どこへでも持ち運べる気軽さもありますしね」
店長も加わる。
「そうなんですよ。ぼく、ソファに寝そべって読んだりするので文庫本がいいんですよね。行儀が悪いですが。もちろんハードカバーの装丁がすばらしいのもわかっていますよ」
くすくすと茜が笑う。
「お菓子のかけらが落ちても、コーヒーのシミができても気になりませんしね」
「そうなんですよー」
ヤバい。共感されるとめっちゃうれしい。この人もそんな読み方をするんだろうか。休日に寝転がっていると、美季にじゃまにされるんだけれど。
それでなくても、さくらがかまってくれとじゃれついてくるから読んでも二十分がいいところだ。
はっ。しまった。盛り上がってしまった。あれほど気をつけようと思ったのに。ちらりと茜を見ると、目が合ってしまった。軽くほほ笑む茜にとくんと心臓が跳ねた。
美季も本を読むには読むが、ドラマ化や映画化したものがほとんど。あるいは賞を取って話題になっているもの。たまに上野が読んだものを手にする。思い入れもこだわりもない。
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