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その後もブックカフェは順調で、こもれび側も西山堂側も結果には満足していた。さらに次のブックカフェの開店も決まった。上野も高田、馬場も新しい企画に向けて準備に入った。
もう西山堂に行くこともない。カフェの店長にすべて任せることになる。上野の手元に来るのは売り上げや仕入れの数字だけである。
少々気の抜けた上野は、それでも次の企画に邁進していた。上野の日常からすこしずつ茜が消えていく。
そのうち思い出すこともなくなって、元どおりになるだけだ。寂しさが安堵に変わっていく。馬場からとげとげしい視線を向けられることもなくなった。
そんなときだった。
「打ち上げしましょうよ」
目黒から連絡がきた。
蒸し返すなぁ。そう思うのは上野だけだ。あと馬場。
せっかく踏ん切りをつけたのになぁ。また会うのはちょっとなぁ。困ったなぁ。
いや、会えるのはうれしいんだけれども。
そんな迷いを高田が見事に粉砕した。
「いつにしますかー?」
馬場がすごい目でにらんでいるが、気づきもしない。たぶん馬場に頼まれた、上野と茜に関する件はすっかり忘れている。高田と目黒は同類項でくくっていいんじゃないかな。すっかり意気投合しているし。
上司の上野を無視して、高田と目黒で日時を決定してしまった。打ち上げをダシにして二人で飲みたいだけじゃなかろうか。
「新宿の居酒屋でーす」
うん、まあ新宿ならいいか。すぐ帰れるし。上野の自宅は荻窪である。新宿からもすぐだし、三鷹も近い。西山堂へも行こうと思えばいつでも行ける。だからこそ行ってはいけないのだ。
だから、これが茜に会う最後だ。
それが好機だとしても危機だとしても。
高田と目黒が手はずを整えたその日その時間に新宿の居酒屋にそろったのは、内装を担当した設計事務所の二人、西山堂の店長と目黒、神田茜。そして高田、馬場、上野だった。目黒は社長からちゃっかりと金一封をもらってきていた。こんなところは抜け目がない。
いたって普通に始まった打ち上げは、「おつかれさま」の乾杯にはじまり、ブックカフェの近況報告と続き、個人的な感想をいい合って、しまいにはごくプライベートな話まで及んだ。一つの仕事を成し遂げ、それが成功したという高揚感がその場に流れていた。
こういう飲み会はいい。
とくに、高田と目黒はよほどこの仕事が楽しかったらしく、話が尽きない。
上野はあえて茜とは距離を置いた。話の流れで相槌をうつことはあっても、ことばをかわすことは避けとおした。茜も絡んでくることはなく、おたがいに、かかわらないと決めたのだなと納得した。なにより馬場にがっちりとガードされていた。
無理もない。飲み会なんて最もヤバい。

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